冬の日誌
冬の日誌 / 感想・レビュー
どんぐり
「君」の二人称で語るオースターの回想記。オースターは、やっぱりオースターだった。ニュージャージー州ニューアークのべス・イスラエル病院での誕生(1947年2月3日)から始まって、現在(2011年1月のこの寒い朝)に至る「生まれてから現在までの21の定住所」の回顧、こういう書き方もある。鏡を見て「人生はすべて偶発的なのだという認識――ただひとつ必然なのは、遅かれ早かれ終わりが来るということ」、そんなことを言うオースターをまた読むことができて、うれしい。あと1冊『内面からの報告書』もある。
2017/04/07
Willie the Wildcat
”愛すべき人間”への願望。半生の棚卸しを通した自己再認識と再発見。印象的なのが「住居の歴史」。私自身の場合、17の定住所!Here, there, nowhere...、故の家。共感。自分のことを重ね、思わずプッと笑うこと多々。仏で遭遇した利他主義の歯医者/左翼の農夫・・・、私の場合はFBI捜査官。欧州船旅は、もれなくDaytona Beach!一方、”時間”が冬の時代を告げる最後の件は、実感が沸かない。年齢の違いの問題だけではなく、死への向き合い方かもしれない。まだまだ人生経験が浅いということですね。
2018/09/12
キムチ
「体と地面が近かった」時間から、喪失感漂う冬の今まで、ゆっくり回顧するように想いが綴られて行く。オースターを知らなさすぎる事で私にはかなりのハンディ。『君』とは何かすら、半ばでやっと理解した。圧倒されるのは多彩に述べられる居住史。様々な「その時」を様々な想いで受け止めた体感史、ある意味自己考古学というべきか。母親を愛してやまない筆者が2人の「母」について述べる下り。ユダヤ人である彼も父母も数奇な時間を生きてきたであろう事実がメモを見るといった体裁でなく気持ちで書かれて行く。
2017/04/19
ヘラジカ
未来の自分に向けての手紙というものはよくあるが、これは逆に過去の自分に向けて語りかけている。二人称で書かれた珍しい形の自伝文学。家族や恋人との交流・住んでいた家・事故や怪我の思い出を、人生の冬に差し掛かったタイミングで脈絡なく掘り起こし、バラバラに繋ぎ合わせている。詩的でありながらもやはりオースターの語りは巧みで、ついつい読みふけってしまうような小説的な面白さも備えていた。柴田氏の言う通り、この本を読んでいた間は自らの人生に思いを馳せる回数が非常に多かったように思う。素晴らしい書だった。
2017/02/26
りつこ
自伝ではあるけれど自分にたいして「君」と呼びかけることで、私的な出来事をできる限り客観的に俯瞰して見つめようとしてるように感じた。とても正直でデリケートでエモーショナルな人なんだなと思った。身体や怪我や住んだ家などの切り口から自分の人生の歩みを見直そうとしたり自分にとって決定的だった出来事を取り出していったり…なかには思い出すことも辛いようなこともあっただろうに驚くほど赤裸々に描かれていて驚いた。とても面白かった。
2017/06/08
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