逃げてゆく愛 (Shinchosha CREST BOOKS)
逃げてゆく愛 (Shinchosha CREST BOOKS) / 感想・レビュー
遥かなる想い
ドイツの作家シュリンクによる 知らない過去を辿る短編集である。どの作品も 主人公たちの内面が 細やかに 書き込まれていて 心地良い。作品中に垣間見られる ユダヤ人殺戮の影は 「朗読者」を想起させる。 何気ない物語が突然残酷な意味を持ち始めるのは 著者の意図なのだろうか? それにしても ドイツが抱える闇とは何なのだろう…ひどく 残酷な面が 見え隠れする、そんな印象の短編集だった。
2019/07/12
藤月はな(灯れ松明の火)
自分の選択してきた事やそう、生きてきた事が実は間違いだと気づかされる事程、恐ろしい事はない。それはヒトラーとナチス政党を国民の意思で選んでしまい、東西ドイツ時代には密告が横行したドイツ国民にとっては永遠に抱えなくてはいけないジレンマなのかもしれない。それを象徴する「少女とトカゲ」や「脱線」は「間違いだとしても他にどうすれば良かったのか・・・」と思わざるを得られない。「もう一人の男」は亡き妻の浮気相手に会いにいく男がその前に娘から 「昔から勝手だ」と非難される場面は、身に覚えがありすぎて心が痛くなった。
2017/10/19
メルト
現代ドイツ作家のシュリンクによる短編集。独立短編集だが、愛や記憶が通底するテーマとなっている。個人的には「少女とトカゲ」が好きだった。それにしてもこの作品は、ドイツだからか、歴史と個人が密接に関わっているのだなと思った。東西の分断であったり、ナチス時代であったり。その点の興味もあったが、なによりも物語を覆う多様な愛に心ひかれた。もういちど、きちんと読みたい。
2020/10/11
Nobuko Hashimoto
共通テーマは過去とどう向き合うか。特にアウシュビッツ、ナチス、ユダヤ人との関係、秘密警察といったドイツが抱える問題と現代の男女関係・家族関係とを絡めて描いた小説集。同じ作者の『朗読者』ほど重くないが、それだけに私たちに置き換えて読みやすいかもしれない。それにしても、なんだこの勝手な男!こんな夫/恋人イヤ!って主人公がちらほら出てくる。が、なんとなく情けないところがあって憎めない。そこは作者のうまいところかな。
2015/11/19
hagen
納められている七編の短編集の中でも『割礼』は自己や民族のアイデンティティーについての問いを映し出す印象深い物語だ。アメリカ在住の若いドイツ人の夫とユダヤ人の妻。彼らはお互い深く愛し合い、公私と共に尊敬し合う。そして彼らはすべてにおいて満ち足りている。しかし何気ない日常の中で宗教上の様々な相違、迫害の戦争の歴史は、ユダヤ人である妻のサラのふとした日常の会話の中に現れ、夫のアンディを悩ませる。単に育った世界の違いだけでは済まない血の根底に流れる不条理な記憶。彼女の民族になると彼は割礼を受ける。そして・・。
2020/06/05
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