シェル・コレクタ- (Shinchosha CREST BOOKS)
シェル・コレクタ- (Shinchosha CREST BOOKS) / 感想・レビュー
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
水面に無数に反射する星の静けさ。ミルクを溶かした月の灯、耳がきこえなくなったのか、何の音もしない。でも肌でかんじるたくさんの生きものの気配。敷き積もる落ち葉の息遣い、そこにひそやかに動く虫たち、声をひそめ眠る鳥の寝息。少しずつ冬の匂いが満ちる。 私たちは敬われて罵倒されて突然賞賛されてまた突然略奪されて、そして生きて生きて生きて生きて死んでいく。 自然はあまりにも美しく残酷で、無数の生きるものたちがそこにあって、みんな等しく死に向かって生きていく。そのことにこんなにも心が震えるのは何故なんだろう。
2019/10/20
ケイ
短編集。表題作の「シェルコレクター」が一番心に残る。人の世は移ろい、人の心も移ろう。愛していた身近な人は帰って来ず、大切に思っていても離れているほど関係性はかわる。大切にしていたものを、他の人がどうして同じように大切に扱ってくれないのか、悲しくなる。珊瑚なんて、貝殻なんて、すぐに壊れてしまうのに。大切している物を壊すモーターボートの音も、自分を助けに来る時には、助けに来るやさしい人が乗っている時には、その響きは希望となり暖かい気持ちを生みだす。
2018/12/09
遥かなる想い
アメリカ作家による 心に染みる短編集である。 自然の中で生きる 人たちの 超自然的な力が 共通のテーマなのだろう。 どの作品も 不可思議な 心の移ろいを 哀しげに描く。 あり得ない設定の中に さりげなく 真実を 盛り込んで…著者の描きたかった ものは 丹念に 描かれている…そんな短編集だった。
2019/07/23
雪うさぎ
美と喪失は同じものであり、それが世界を秩序づける。冬眠する動物の脈動、疾走する娘の息づかい、地中に埋められたクジラの心臓。それらはやがて大地と同化して、森の歌となっていく。喪失することによって、新たな命が芽吹き、新しい可能性が開かれる。毒と薬、愛と失望、出会いと別れ、自然と文明。対比するかに見えるものも、実は細い線で隔てられているだけ。その線は儚く、ときには存在しない。作家は世界を巡り、写真家のような観察眼で、自然とその土地に住む人や生き物の営みを静謐な文章で写し撮る。命の鼓動が鮮明に伝わってきた。
2016/01/21
ちゃちゃ
己の内なる鼓動を感じながら生きる命の輝き。放たれる光は、大自然の美しさと非情さを、そして、その中で生きる人間の無力さを写し出す。時には抑えようもない衝動に押し流され、時にはそれに抗おうとして生きる人間の哀しさと愛おしさ。内なる自然との対話が、真に己れの求めるものに導き、やがて光を見いだすことへと繋がる。8編の短編は、生の痛みと喜び、孤独と再生を、簡潔かつ繊細な筆致で写し取る。その切れ味の鋭さと豊かさ、完成度の高さに圧倒される。どの短編も、人間の本質に迫る素晴らしい短編集だった。
2019/05/18
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