遺失物管理所 (新潮クレスト・ブックス)
遺失物管理所 (新潮クレスト・ブックス) / 感想・レビュー
遥かなる想い
北ドイツの駅の遺失物管理所を舞台にした 人間模様である。 ひとつひとつの遺失物にストーリーが 秘められており、人間味があふれている。 24歳のヘンリーの周辺で 起こる日常と 人妻 パウラの駆け引きが 物語の主軸だが、 … 正直二人の人物造形に 魅力がなく、 淡々と お話が 進んでいったという印象で …中途半端な物語、という読後感だった。
2019/08/16
新地学@児童書病発動中
遺失物管理所で働き始めた若い男性のヘンリーが主人公の物語。ヘンリーの「ぼくは仕事をしながら自分自身が遺失物みたいな気がしているんだよ」という言葉が象徴的だ。複雑な現代社会の中で、自分の居場所を見失いがちな人達の触れ合いを描いているところが非常に好み。読んでいると胸の中に温かな気持ちが広がっていった。ドラマチックなことが起こらずに淡々と過ぎていく日々の中にある豊かさや恵みを感じさせる筆致で、これは74歳の作者の豊かな人生経験が反映されているのかも。瞬きの間に見落としてしまいそうな微妙なユーモアも良かった。
2015/11/26
紅はこべ
舞台設定自体は興味深かったけれど、何かあまり心に響かなかった。主人公のヘンリーに好感が持てなかったからかな。出世に興味がないという、今時の日本によくいそうなタイプなんだけど。心根も優しいんだけど。既婚者のパウラへの接し方があざとい。登場人物で一番魅力的だったのはフェードル(ロシア名ならフョードルじゃないかな。ドイツ語読み?)。彼が傷ついたまま去るのがやるせない。
2023/08/03
どんぐり
鉄道の遺失物管理所を訪れる客とそこで働く青年との交流を描いたレンツの作品。財布から指輪、かばん、ぬいぐるみ、時には入れ歯など、実に様々なものを置き忘れ、人は探しにやってくる。たいした事件が起きるわけではない。「自分自身も遺失物みたいな気がする」という青年の日常生活を淡々と描く。物語の終盤に至って、移民国家のドイツらしく人種間の不穏な諍いもあり、暴徒化した若者たちがバシュキール人を襲う場面も登場する。ただ、そのエピソードがこの小説にどういう意味をもたせているのか、いまひとつわからない。
2019/12/13
キジネコ
ドイツ高速鉄道は、大きな不採算を抱えていました。それは世界全体の謂わば縮図、合理化を目指す経営、新しい社会システムと抑圧された人々のストレス、そして排外主義と移民攻撃・・ 宿痾の如きナチの亡霊が読者の胸騒ぎを誘います。忘れ物保管所と そこに働く人達、集まって来るモノが穏当な比喩として物語の牽引役をにないます。忘失、遺棄、悪意の傀儡、様々な属性を付与されたモノが そのまま交換可能な部品の様にヒトを見倣す二重写しのドラマを見せます。優しく温かな語り口に載せた示唆はシンプルだけど特別な重力の触りを読者に為す。
2015/02/19
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