記憶に残っていること: 新潮クレスト・ブックス短篇小説ベスト・コレクション (Shinchosha CREST BOOKS)
記憶に残っていること: 新潮クレスト・ブックス短篇小説ベスト・コレクション (Shinchosha CREST BOOKS)
- 作家
- 出版社
- 新潮社
- 発売日
- 2008-08-01
- ISBN
- 9784105900700
記憶に残っていること: 新潮クレスト・ブックス短篇小説ベスト・コレクション (Shinchosha CREST BOOKS) / 感想・レビュー
アナーキー靴下
このタイトルは絶妙。10人の作家の短篇集だが、ある日の出来事系等奥行きがある話ばかり。どこまでも物語が広がってゆく。気に入ったのはイーユン・リー「あまりもの」誠実に日々を生きる人が等しく手にする財産。ギャリコのハリスおばさんを思い出す。それからタイトルに使われているアリス・マンローの「記憶に残っていること」これはすごい。固定化された関係を批判的に見る目の鋭さ。女性的な思考を見事に言い当てられた、という気持ちになるが、忖度文化かつSNS等で否が応でも我が身を客観視しがちな現代日本人は男女問わず刺さるかも。
2023/05/03
藤月はな(灯れ松明の火)
「もつれた糸」、「ピルザダさんが食事に来たころ」、「島」、「死者と共に」は既読。「ピルザダさん」は高校1年生に読んだ時はピンとこなかったが、独立運動を知った今では亡命し、パキスタンに置いてきた家族の安否を心配するピルザダさんへ主人公の冷ややかな視点に腹が立ちつつも仕方がないなと思う。「ピルザダさん」は希望のある『さよなら、妖精』のようなものだったのか。「あまりもの」の林さんの報われない人生が苦くて甘い。「記憶に残っていること」の選ばなかったが、人生を支えてくれた事の暖かな重みと切なさに瞼が熱くなる。
2016/06/18
キムチ
歳を重ねる事・・正直、好きじゃなかったし、精神が成熟して行くとも思えなかったけど・・この1冊を読んであ~と感慨にふけった。そして偶然嵌って行った翻訳ものの世界が素晴らしいと改めて思えた。堀江氏の編になる珠玉の10篇。半分は既読。でも再読するのが稀な私、この機会を与えて貰えたことで行の裏面、感情の襞、林間に立ち込める湿気、吹き渡る風・・少しはふれられたような気分。どれが・なんてとても言えない。ドーア、マンロー、ラヒリ、シュリンク・・吐息をつきながら掌に温めて読む。
2017/06/13
metoo
珠玉の小曲集のような一冊。イーユン・リー、ジュンパ・ラヒリ、アリス・マンロー、ベルンハルト・シュリンク、ウィリアム・トレヴァー他全10編、最後は編者堀江敏幸の「人はなにかを失わずになにかを得ることはできない」というあとがきがある。裏表紙には10人の著者名・著書名、そして顔写真。皆さんいい表情。10編どれも響き合う作品。特にお気に入りはアリステア・マクラウドの「島」。島で生まれ島の灯台を守る女性の話。灯台の閉鎖が決まった時に起きた奇跡は、一人で生きて来た女性の心をしみじみと照らす灯りのよう。
2016/11/18
mii22.
どの短篇もビターで胸に刺さるものがある。今ここにいない人や失ったものを想うとき、後悔で心を埋めつくし寂しさで心細くなったり、また少しばかり安堵したりと揺れる感情をもて余す。初読み作家作品が多かった中で、マクラウドの『島』が圧倒的に心揺さぶられた。離島の灯台を守る一家に生まれ、厳しい自然と向き合い生きる主人公にグッと引き寄せられるようにのめり込んで読んだ。涙した。そしてマンローの『記憶に残っていること』は心憎いほど主人公の女性の心の機微がリアルに表現されていて、私のなかの隠れた女性の部分を刺激した。
2017/12/15
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