帰郷者 (Shinchosha CREST BOOKS)
帰郷者 (Shinchosha CREST BOOKS) / 感想・レビュー
遥かなる想い
ドイツの帰還兵の物語の結末を 主人公が探し求める物語である。 父と息子が 本書の中心的テーマなのだろうが、 父の真実を追うペーターに 全く共感を 覚えないのは なぜなのだろう… ドイツ史に深く影を落とす ナチの断片が 本作でも 不気味である。 著者は 本作で何を描こうとしたのだろうか? 母が語る嘘の中に 当時のドイツ人の諦めを 感じる…そんな印象の作品だった。
2020/01/19
藤月はな(灯れ松明の火)
義理と責任を重んじる母、愛情深く、物語の才がある祖父母に育てられたペーター。見つけた本の帰還兵の物語はひょっとしたら自分の父親の事を示しているのではないかと疑うが・・・。しかし、ペーターが父親探しに行動を移すのは頁が残り1/3になってからです。それまでは女に責任転嫁したり、フラフラしていたりするペーターの姿が父の実態と重なるとは。父の事を秘した母を詰るペーターに対しての母の嘲りと諦観が居た堪れなかった。また、ラストでペーターは「オデュセウス(父)になりたかった」と述懐するが、彼自身がオデュセウスだった皮肉
2018/10/23
のっち♬
長い戦争の末に帰り着いた兵士は、妻の後ろに見知らぬ男の姿を認める—結末が抜けた小説が実話だと突き止めた主人公は、時に歴史家になりすましたり、恋に落ちたりしながら作者を調べてまわる。『オデュッセイア』をモチーフにしたミステリー仕立ての物語かと思いきや、国を跨いだ壮大な広がりと意外な展開を見せ、結末へ向けて徐々にスピード感を増していく。サブプロットが有機的に結びつかず、全体的に散漫だが、法学者との対決などはハイライト。本書でもナチスが戦後に落とした影を扱っており、端正かつ抑制の効いた静かな筆致も著者ならでは。
2018/03/22
キムチ
なんともはや、「ドイツ人らしい」作品。帰郷とは文字通り故郷に帰ることなんだけど、シュリンクが書きたいそれって、「第2次大戦後、長い時間をかけて統一ドイツに向けて各人が集団が魂の彷徨の果てにた辿り着くところ」というニュアンス。日独は類似の箇所があるというが、この時点で圧倒的にアイデンティティの追求の鋭さに関しては日本とは非なるものを感じる。作者の分身的な香りを感じる主人公ペーターがひょんなことから首を突っ込む「失われた頁」探索。母との暮らしでは見えていなかった父の具体像。
2015/07/29
ソングライン
第2次大戦末期にドイツに生まれた主人公、幼い時のスイスに暮らす祖父母の家で過ごした夏休みの思い出、戦争で亡くなったと聞かされる父の姿は彼の心の中には存在していません。大人になり、祖父の遺品の中にあった戦争から帰郷する兵士の物語、その結末を訪ねる旅から始まる、恋人との出会い、そしてたどり着く生きていた父親の現在。ナチスの思想の擁護者であったかもしれない父の過去、アメリカに逃れ、法律学者として暮らし、息子の存在を消し去った父との対決を描く後半は物語に引き込まれます。
2019/08/25
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