ボート (Shinchosha CREST BOOKS)
ボート (Shinchosha CREST BOOKS) / 感想・レビュー
遥かなる想い
ベトナム ボートピープル作家による短編集である。清新な印象が心地よい。 舞台を ニューヨーク、ヒロシマ、アイオワ…と 変えながら、描かれる世界は ひどく透明で 哀しい。母国を捨てて、異国で生きた 作家のとても静かな短編集だった。
2020/07/31
藤月はな(灯れ松明の火)
読み始めて心を鷲掴みされたような衝撃に襲われた短編集。娘に顔も逢わせたくないほど、嫌われているのに会おうとする情けない老人、コロンビアの殺し屋の切ない末路、広島へのリトル・ボーイ投下前の少女の生活風景など、「本当に一人で書いたの!?」と思う程、筆致も読後感もバラエティ豊か。「ハーフリード湾」でジェイミーの父が殴られる場面はスザンナ・ビネ監督の『未来を生きる君たちへ』の一場面を思い出したが、こっちの方が爽やかだ。この作家さんの作品、もっと、読みたい!
2017/03/20
キムチ
他の短編集でこの作家を知り、他者にはない独特の焦燥感が面白く読む。正直、種々の人種、国、設定が出てきても重奏低音が一緒・・良くも悪くも。申し訳ないが彼には「元ボートピープル」という冠はついて回ると思った。乗り越える何かが無いと(エラソーだけど)地元近くが国際空港なので頻繁にこの国の方々に会う・・何か共通するものが多い・・中国、韓国とは明らかに違って。どこでもしなやかに溶け込んでいくけれど、文体から肉体的接触や感覚がかなり重要なポイントを置くのじゃないかなと感じた。ヒロシマは違和感ありすぎ、挫折。
2017/07/20
夏
ベトナム出身で、ボートピープルとしてオーストラリアに渡った作者が贈る、7篇の短編集。一番初めの「愛と名誉と憐れみと誇りと同情と犠牲」から彼の物語に入り込む。どのお話にも、一筋の切なさが差しているようだった。7つのお話がそれぞれ別の土地を題材にしているところが、この本のすごいところだと思う。なかでも「ヒロシマ」は、本当に日本の情景が感じられ、何故日本人ではない作者がこのような物語を書けるのだろうと驚かされた。この小説全体の雰囲気が、とても好きだ。作者の作品を、他にも読んでみたい。星4.5。
2023/08/15
ぱせり
表に出ない悲しみや壮絶な感情の端っこを垣間見たような気がするのに、それをかき消すように、すべてをあいまいにぼかした終わり方。・・・できれば忘れて欲しい、と言われたみたい。ほら、こんなに濃い背景のなかでは、そんな小さなこと、どうでもいいんだよ、そうだろ。そんなふうに言われているみたい。でも、忘れないよ、ちらり仄見えたそれのこと。
2010/04/23
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