メモリー・ウォール (Shinchosha CREST BOOKS)
メモリー・ウォール (Shinchosha CREST BOOKS) / 感想・レビュー
文庫フリーク@灯れ松明の火
記憶をカートリッジに保管・再生する老女の表題作ほか、世界の異なる場所・異なる境遇にある主人公を、この世界に繋ぎとめる【記憶】巡る6つの短編集。私は10年以上、認知症高齢者の方の介護を職としている。私自身、記銘力が無くなる日もいずれ訪れることだろう。【私】が失われるわけではない、古い記憶が全て無くなるわけでもない。それでも私自身の【記憶】が繋ぎとめているものは大きい。『すべての見えない光』同様、淡々と綴られる物語。エンタメとは程遠い世界。けれど「メモリー・ウォール」「生殖せよ、発生せよ」「非武装地帯」→続
2017/07/04
遥かなる想い
「記憶」を巡る六つの物語である。 ひどく静謐な雰囲気が心良い。 場所を変え、人を変え、時代を変えても 描かれるトーンは同じで、独特な雰囲気が醸し出される。背後に見え隠れする 社会の軋み、歴史の酷さを 柔らかく包みながら、物語は進む …やや淡白だが、安定の筆致だった。
2020/10/30
ケイ
表題作の中編が秀逸。ドーアは、差別する側、攻撃する側に、いつも少し残酷。アルマはその罪を課されるが記憶の無さに助けられている。頭に穴を開けられた少年が持つ記憶は、彼を意地悪にしないのね。弱い者がより弱い者にやさしく出来る事が、福音をもたらす。『Villa 113』種屋さんはダムの水に村を呑み込ませる息子を否定できない。横たわる哀しみ。...「これが見納めだと分かっていると、その場所は違って見えるのだ。場所のほうがもう二度と人目に触れることはないと知っているのかもしれん」
2018/12/12
jam
どの短編も長編の読後感を味わう。作品はシンプルで難しくはない。けれど、そこには矛盾や双極を孕み成り立つ「この世界」に等しい均衡がある。無数のカートリッジにおさめられた老女の記憶の断片を表題とする物語は、喪失を遡り太古の片鱗に触れ、やがてかすかに未来を繋ぐ。どれも遠く静かに悲しみを湛え、この地球のどこかにある風景に寄り添う記憶が語られる。儚くも力強いそれらは、寂寥感に包まれながらも感傷的ではない。記憶を拠り所として存在せしめる人というものの不確かさが、それゆえの美しさに肯定されるように。
2017/11/22
naoっぴ
「シェルコレクター」が忘れられず読んでみましたがこの短編集も印象深い作品ばかりでした。どれもどこか哀しみを帯びつつほんのり希望が感じられる話で、読んだ後に余韻がじわじわと沁み出してくる。現在形短文でシャワーのように浴びせる情景描写は独特で、読むというよりも、右脳を総動員させ″感じる″読書。その感覚がとても新鮮です。記憶をカセットに保存し美しい思い出に浸る老女の近未来の話の表題作、ダムに沈みゆく美しい村を描く「一一三号村」、ユダヤ人女性の記憶を辿る「来世」が好き。アンソニードーア、クセになります。
2016/06/06
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