夏の嘘 (Crest books)
夏の嘘 (Crest books) / 感想・レビュー
遥かなる想い
シュリンク10年ぶりの短編集である。 小さな嘘が 人と人との関係を微妙に 変えていく…優柔不断な男たちと、 芯の強い女性たち…穏やかな愛が 哀切に描かれる。余韻豊かな終わり方も 著者らしく、味わい深い短編集だった。
2020/12/29
藤月はな(灯れ松明の火)
相手を想って、自分を守るため、または「今、言うべきじゃない」と自重してしまった事はやがて、嘘になる。だからといってその嘘は全て裁かれなければ、ならないのか?「シーズンオフ」はリチャードの気持ちも分かる分、あんなに愛し合っていた彼らが別れなければならない切なさが辛い。表題作の愛する家族との噛み合わなさに対し、妙な清々しさは泣きたくなる程、美しい。しかし、「森のなかの家」は読み進めていく内に気づく違和感がピークに達し、ラストの有り得ない思考回路に凍りつく。この旦那、怖い!
2017/09/19
アン
『朗読者』のシュリンクによる、嘘と真実を巡る短編集。これまでのナチズムに関する作品とは趣きが異なり、誰もが思い当たるような心の葛藤を描いています。シーズンオフのリゾート地での恋、森の中で新しい生活を始めた夫婦、結婚生活を顧みる老女とかつての恋人…。愛情の脆さや身勝手さ、老いる事の不安。嘘とは様々な表情があり、慰めにも痛みにも変化し日常を予想しない方向へ導いてしまうものかもしれません。本当の気持ちが自分でもわからなくなり、心は行ったり来たり。夏の眩しさに身を委ねるのを躊躇うように。
2019/05/27
しいたけ
生き延びるために嘘をつく虫がいる。人がつく嘘は、もっとちっぽけで小賢しくて優しくて、それはそれで愛おしい。男女間の嘘、父子の嘘、ふと出会っただけの人との不穏な嘘、自分の過去を書き換える嘘。嘘がつけるのは相手があってこそ。愛したり憎んだり、手を差し伸べたり突き放したりの相手がいればこその長い人生の旅。「旅というのは、愛よりも短い幻想だった」との一文に惹かれる。旅の最期は、死んだふりのように迎えたい。虫の必死の死んだふりを、茶化すわけではないけれど。
2017/09/07
chantal(シャンタール)
夏を過ごすリゾートで、静かな森で、ある家庭で、ちょっとした真実を隠すためにつかれる嘘。相手のことを思ってついたものだったり、関係を継続させるための嘘だったり、人は生きていれば必ずどこかで嘘をつく。「嘘は嫌」と言いつつ、嘘をついて欲しいと思う事もあるし、真実を信じたくなくて嘘を信じたり、人間って複雑だよね。連作ではなく、全くバラバラな短編集だが、なぜか私にはどのお話もどこかで繋がっているような、そんな気がした。父と息子のバッハのお話が一番良かったかな。そして「愛は感情ではなく意志の問題」、この言葉が印象的。
2022/01/31
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