大いなる不満 (Shinchosha CREST BOOKS)
大いなる不満 (Shinchosha CREST BOOKS) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
セス・フリードの第一作品集。11の短篇を収録。これらの11篇は、すべて異なった小説素材から構成されている。研究者たちの世界あり、歴史小説あり、希少生物の観察記録ありといった具合だ。そして、そのいずれもが、これまでにはなかった虚構のスタイルだ。とはいっても、全く違うというのではなく、微妙なズレにこそ、その特徴がある。どれも先行の作品に少しずつ似ているが、やはり違うのだ。どれを好むかはかなり別れるところだろう。私はカフカ的で、やるせない不条理世界を作り出した「包囲戦」を挙げたい。特異性では「希少生物集」か。
2014/12/10
ケイ
訳者の藤井さんに会える機会があったので、その前に再読。私は、この「大いなる不満」がなんとも好き。このムンムンと漂うフラストレーション、それを発する者たちが、理由がわからないまま、ただ募らせていく感じがいい。このタイトルは、ディケンズの「大きなる遺産」(The Great Expectations) からつけたのですか?と聞いたら、やはりそうだと。とても嬉しくなった。
2016/09/12
ケイ
表題作に圧倒された。原題「The Great frustration」 登場している者達の鬱屈がそこかしこに充満していて、彼らのフラストレーションがこちらをも抑圧してくるかのよう。息苦しさがムンムンとしている。まだ若いアメリカの作家だ。他の10の短編は悪くはないが、中盤の盛り上がり方に比べ、最後がうまく収束できていないような印象を持った。表題作「大いなる不満」を読むだけでもこの本を手に取る価値があると思う。横に冷たい水かレモンスカッシュを置いておいて、読んだ後はそれで涼を取りたい気分になるような話。
2015/02/19
nobi
ドアを開けるたびに閃光が走りその過剰な光の波長は迷い込んだ部屋毎に違っている、といった体感。部屋々々の意匠と住人は、考古学研究所、現代アメリカの街、スペイン侵略下の中南米、王の閨房、中世の修道院…と様々。で、度を越した暴力と欲望の種々の形態が次々と眼前に現れて居たたまれなくなってくる。その強い刺激から身を隠したくなる。得意気に差し出される意外性も寓意性も少し鼻についてくる。その中「ハーレムでの生活」「征服者の惨めさ」は奥深い欲望の暗さが幻想の中に見え隠れして、この方向の短編ならもう少し読んでみてもいいか。
2017/07/01
mii22.
11の短篇が収められているが、1篇目から、何これ、面白いじゃないと、前のめりに読んでいく。ポップでユニークで独特な熱気を感じる文章。日常の中に潜む闇を目にし、自滅あるいは破滅に向かっていくような恐怖の展開。不満と欲望が渦巻き悶々とした世界を描き出す物語。特に好みなのは「フロスト・マウンテン・ピクニックの虐殺」「ハーレムでの生活」「大いなる不満」と前半に集中している。最後の架空の微小生物を記述する体裁の「微小生物集」は作者の奇想が溢れんばかりで 楽しい
2019/06/11
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