夜、僕らは輪になって歩く (Shinchosha CREST BOOKS)
夜、僕らは輪になって歩く (Shinchosha CREST BOOKS) / 感想・レビュー
NAO
内戦は終結しているとはいえ、まだまだ政情は不安定な国の首都から離れた山間の村には、村民以外には知られてはいけない秘密がある。そんな村々を巡る劇団員には、過去へのくすぶる思いがあり、叶わぬ夢への疼きがあり、心に刻まれた人に対する心の痛みがある。彼らはあまりにも不安定な立場にある。ヘンリーは煽動家と言われればそういえないこともないがテロリストではないし、ネルソンもそうだ。つまり、この国では、ちゃとした捜査など望めないということだ。ヘンリーやネルソンに起きたことは、いつ誰に起こりうるかもしれないのだ。
2021/09/04
harass
内戦が終わり数年がたつ、この国で伝説とされる劇団が再結成され、地方巡業に向かうが…… ペルーの若手作家の小説。三人称の群像劇かと思ったら途中で僕という人物が。ときおりこの僕が登場人物たちにインタビューしたりもする。登場人物たちの運命が一体どうなるかと、この僕というはなんなのかと、この二点が気になり読んだ。人物たちの配置は戯曲のように感じる。淡々とした進み方が、内戦の傷跡に悩まされる人々と悲しみを感じさせる。いろいろ予想外な読書だった。
2017/04/20
のぶ
内戦の終わった南米のある国で小さな劇団が「間抜けの大統領」という演目を持って旅する話だが、単なるロードノベルではない。文章自体は決して難しくはないが、構成が凝っていて、基本は”僕”が物語を語るのだが、気が付くと語りの視点が変わっていたり、知らないうちに演目の劇中劇の世界に入り込んでいたり、ボーッと読んでいると混乱してくる。一度読んだだけでは自分の能力では読み解けなかった。優れた文学にありがちなカオスに満ちた作品。
2016/04/24
りつこ
主人公であるネルソンに何かが起きたことが示唆されているので、いつ何が起きるのかと不安な気持ちで読み進めることになる。ここではない何処かに行くこと、偉大な何者かになること、若者ならではの選択がこんな悲劇を生むとは…。語り手が当事者になるともう安全ではない。読んでる私自身もこの輪の中にも巻き込まれたら…。読み終わってもなんだかざわざわした気持ちが続いている。
2016/04/03
マリカ
南米のとある国。人々は、権力や暴力が渦巻く巨大な闇を囲むように歩いている。無用心に闇に近づこうものなら、瞬く間に闇に飲み込まれてしまう。そして、闇の淵から帰還できるものもいれば、還らぬものもいる。この国で批判的に生きることは危険、無知のまま生きることも危険、野心を持つことも危険。かといって、権力や暴力の闇に目をつぶって生きていけばよいのだろうか。それとも自由が保証されている外国へ移住することが最善策なのだろうか。アラルコンの答えはこの小説をして、その疑問を世に問うことなのかもしれないと思った。
2016/05/27
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