誰もいないホテルで (Crest books)
誰もいないホテルで (Crest books) / 感想・レビュー
ゆりあす62
図書館本。★★★☆☆スイス人作家、10の話からなる短篇集。「スウィート・ドリームズ」は村上春樹氏が「甘い夢を」として翻訳し、『恋しくて』に納めているという。個人的には、表題の「誰もいないホテルで」と「氷の月」と「眠り聖人の祝日」と「自然の成りゆき」・・・とにかく、どれも日常生活にスパイスをきかせた心にひっかかる物語ばかりなのだが、どこか不安定な最後が心から離れないのかな。
2017/03/09
NAO
10の短編のほとんどが、スイスのボーデン湖に接する地方を舞台としている。その地に住む者、その地にやってきた者。彼らは、楽しいことなどないかのように、どこか諦めたような眼差しをしている。いつもと変わらない日々なのに、それは、不穏さを感じさせる。そして、不意に、奇妙な出来事が、それまでの暮らしを一変させる。救いのない話は、満たされない思いと、読んでいく端から壊れていきそうな脆さの中で危うく成り立っている。スイスという美しくも孤立した土地が、その危うさをいっそう引きたてている。
2021/11/28
キムチ
心のバケツに空きがないと読めない作品ばかり~短編集なのに。自然に対峙する人間はちっぽけ。淡々と生まれて粛々と土に帰っていく。その営みを懊悩の画面にしつらえて、読み手は曇りガラスの向こうに遠景として読んでいる印象。時には自己中心、或は閉塞的視野に陥っているヒーローヒロインを見出すも、現実に立ち戻ってみると、自分だってさもあらんかな・・と。エピソードに必然がなく、え・・って余韻を手探るラストが多かった。最後の・・のピアノ教師の痛さとスーツケースが印象に残る・・人生の終焉、妻に背を向けて心は何処へ?
2017/04/06
翔亀
「アーニャはいつも、誰かに近づこうとしていた。…それはいつも、けっして到達できないと確信しつつ、人間に向かって逃避するようなものだった」「彼女は自分を解放しようとするが、その試みによって目に見えない枷はさらにきつくなるばかり」(p56)。スイスの独語系作家が紡ぐ短編はどれも美しい爽やかさの中に、やるせなさを秘めている。このやるせなさから解放されたのは、『森にて』のアーニャの場合は、三年間の森の中での暮らし(野宿!)だった。森で動物のように「現存、いつも意識を目覚めさせていること」(p70)を学ぶ。↓
2016/11/19
藤月はな(灯れ松明の火)
表題作は彼女は一体、なんだったのだろう?「自然の成り行き」は子供を作らない夫婦が恐れに遭遇することで恐れを断ち切るように恐れを生み出す均衡性が見事だ。「主の食卓」は神の愛を人々に説いても報われない牧師。そんな牧師のとった不遜に見える突拍子もない行動は誰よりも神からの祝福を感じていたのだろう。「森にて」は全ての繋がりを切った女が待ちわびていた狩人は『アンチクライスト』で「彼女」が待ちわびていた三貧者と同じものだったのだと思う。「氷の月」の男女関係の孤独やそれでも人を求めずにはいられない切実さに切なくなる
2016/09/09
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