すべての見えない光 (Shinchosha CREST BOOKS)
すべての見えない光 (Shinchosha CREST BOOKS) / 感想・レビュー
文庫フリーク@灯れ松明の火
心惹かれる表紙写真はロバート・キャパ。「・・数学的に言えば、光はすべて目に見えないのだよ」ドイツ孤児院で暮らす8歳のヴェルナーがゴミの山から拾い出し、苦心の末修理したラジオから聴こえてくる、遠くフランスからの子供向け科学についての授業放送。妹と夢中で聴いたその放送は、通信機器と数学的才能に秀でたヴェルナーを国家政治学校教育に進ませ、レジスタンスの通信機器摘発要員として軍務に就かせる。ドイツ占領下・フランス北岸の城壁町サン・マロの大叔父宅で暮らす盲目の少女マリー=ロール。父の手作り・町のミニチュア模型は→続
2017/03/29
kana
本作の尊さ、美しさはピューリツァー賞受賞、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに100週以上ランクイン等々の輝かしい前評判からの期待を裏切らない。第二次大戦下の欧州にて、片や孤児、片や全盲というハンディキャップを背負い、それぞれひたむきに歩んできた少年少女の人生がほんの一瞬交わる。一筋の意思ある行動に運命は動く。ボタンを一つでも掛け違えたらこんな奇跡は起きなかった、そんな壮大なボーイミーツガール作品は、繊細なモザイク画のように2人の時間が行き来する構成で、一欠片ごとに丁寧に愛おしみながら読みました。
2019/04/07
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
美しいものだけを見てあたたかいものだけを口にして。清潔な服を着て困ったひとに手を差し伸べ、美しいくにでひたすらに生きて死んでいけたら。 新しい知識を得ることに夢中になって、その先に何があるかなんて、知らなかった。それが罪なのか。後戻りできないから見ないふりをした。自分を守ろうとした、そのことが? 辛い世界で、それでも他人に優しくあろうとした彼ら。静まりきった夜に無線で流れる月の光、分け合った桃の甘さ。敵と味方に別れたすべての人たちは友達だったかもしれない。すべての、優しくありたかった人たちが迫ってくる。
2020/01/23
雪うさぎ
暗闇を旅する二つの光は、点滅を繰り返しながら、ほんの僅かだけ交錯します。消え入りそうな弱々しい光に、尊さを感じ物語に引き込まれていきます。盲目であっても、見えるものがあります。そばかすだらけの少女の目には、少年の清らかな魂が見えていたのだと思います。希望の光とは外から差し込む光のことではありません。感じることなのです。内なる思いが心の中を照らすのです。子供達の心が暗闇で覆われる世の中にしてはいけません。平和の灯をともす必要があります。ラジオの電波が言葉を伝える装置なのだとしたら、私は反戦の歌を歌いたい。
2017/04/29
aika
世界大戦の戦禍を生き抜くドイツの貧しい技術兵ヴェルナーと、フランスの盲目の少女マリーのふたりの人生を軸に、過去と現在と未来を描き出す見事な筆致です。死の淵にある時にヴェルナーは、無線から届くマリーの声によって生きる希みを見出します。たとえどんな極限状態にあっても、人は、目には見えない光、つまり希望を糧に、生き抜くことができる。誰もが、誰かの生きる希望になれる。それは恋だったり、友情だったり、家族愛だったり。500ページに渡る長編の中で、ふたりの10ページにしか及ばないめぐり逢い。崇高さをもつ邂逅でした。
2016/09/18
感想・レビューをもっと見る