最初の悪い男 (Shinchosha CREST BOOKS)
最初の悪い男 (Shinchosha CREST BOOKS) / 感想・レビュー
ケイ
偏見がないつもりでいる人も、ジュライの話の進め方にはびっくりすると思う。えっ、そう来るか、そしてまたこうなって、ついに有り得ない方向にいく展開を、読者に自然に受け入れさせちゃう。読者を味方につけ、受け入れられない登場人物達を上から目線で見させる。世間によくいる少し変わっている中年女。長く1人でいて、自分にだけ都合がよく暮らしているから、暮らしに色々と独自の規則が多い。そこに無軌道な21才の女がやって来て好きにしたらどうなるか。行き着くのは本当に思いがけないところ。全ての偏見をぶっ飛ばす名作。
2018/10/23
青乃108号
読み始めた時、父はまだ生きていた。半分程読んだところで、あと数日でしょう、と病院から連絡があった。その言葉通り、3日後に父は亡くなった。俺は少しだけ泣いた。あとは葬儀、火葬、役所、銀行、印鑑、書類、また役所、郵便局、父のいた老人ホームと休む間もなかった。ようやくそれらから解放されて、しばらくぶりに戻ってきたこの物語は【命】の物語だった。人間は時間の内側でしか生きられないと。【生きろ生きろ生きろ】疲れ果てた俺を叱咤激励するように。読みながら時々泣いた。
2022/02/19
ケイ
読書会のために再読。2回目は、語り手の主人公以外の人達の気持ちを気にしながら読んだ。フィリップは何故電話し続けるのか。 クリーはなぜシェリルのところに行きたかったのか。2人の精神科医の病み方。そして、『最初の悪い男』について。ああ、そうか。最初に2人が同じ話題について、会話した時の言葉なんだ。こんなにぶっ飛んでエキセントリックなのに、じゃあしちゃダメなことは? この中で何が決定的におかしいの?と問うても、おかしいことなんかどこにもなく、既成概念の虜になっていた自分に気付かされるだけ。作者がくれるのは癒し。
2018/11/18
藤月はな(灯れ松明の火)
奇妙なルールに自ら、縛られて生活しているシェリル。ぶっ飛ぶかと思いきや、意外とすんなり、受け容れられたのは大なり、小なり、シェリルみたいにルールに縛られて何とか生きている人が結構、多いからではないでしょうか。そんな彼女が本当の自分と出会えるきっかけになったのは、美人なビッチで足がメチャ臭で乱暴者のクリーがいたからだ。そんなクリーもまた、シェリルみたいな人だったからこそ、生まれた愛。対して子供の生物的父親だろうフィリップが赤ちゃんと対面して「余所余所しいから違う」という言葉に思わず、笑ってしまいました。
2018/11/05
nobi
四十三歳のシェリルのフライパンには干からびた食べ物がこびりついていて、手に負えないからと預けられた二十歳の娘クリーが買うのは、冷凍食品カップヌードルダイエットペプシ…。男と女、女と女の間には間合いと慎しみが欠けている。妄想、脳内会話、二人の関係も相当奇異。でもシェリルの語りはvivid。訳(岸本佐知子)もあってか同時代的な親しみも感じる。その地平に新しい生命の誕生。想定外の状況は二人を否応なく巻き込んで、対話を促し献身の情を呼び覚まし、しなやかな関係を齎す。文化不毛と見えた土壌の種子から再び文化が芽吹く。
2019/03/14
感想・レビューをもっと見る