オルガ (新潮クレスト・ブックス)
オルガ (新潮クレスト・ブックス) / 感想・レビュー
ちゃちゃ
人生は喪失の連続であり、喪失を受け入れることを学ばなければならないとオルガは語る。二つの大戦を経て激動するドイツを舞台に、貧しい出自ながら自らの意志で果敢に人生を切り拓いてきたオルガ。彼女から大切なものを奪ったものとは何か。「大きすぎる願望」を掲げ植民地主義やナチズムの下、破滅への道を歩んだ男たち。恋人への届かなかった手紙に、彼女の激情が吐露される。人生の最後に彼女が下した驚くべき決断。それは多くの犠牲を強いてきた空虚なものへの彼女なりの怒りと抵抗。オルガという女性の揺るぎない愛と生き様が心を打つ作品だ。
2020/09/26
アン
19世紀末ドイツ北東部。貧しい家に生まれ両親を病気で亡くし、冷淡な祖母に引き取られたオルガ。農園主の息子ヘルベルトと恋に落ちますが結婚は許されず、彼女は教師に彼は北極圏に関心を抱き探検へ。オルガの苦難に満ちた人生が三部構成で語られ、彼女がヘルベルトに宛てた手紙は、ひたむきで深い愛情故の葛藤が痛々しく感じられます。彼女の最後の決断は、運命に翻弄され旅立ったヘルベルトへの抵抗と自責の念に駆られたからでしょうか…。最愛の人へ届かなかった真実と行き場を失った溢れる想い。それは愛という名の祈りであり孤独な心の声。
2020/05/22
のぶ
久々にどっぷりと文学に浸ったような読後感を覚えた。女性の一代記であり、愛の物語であり、一つの戦争文学でもあった。主人公は19世紀末のドイツの貧しい家に生まれ、両親を病気で亡くし、祖母に引き取られた過去があった。やがてヘルベルトという男性と巡り合い恋に落ちるが、結婚は許されずヘルベルトは北極圏へ冒険に出たまま消息を絶つ。時代はドイツが帝国として台頭を表わし、植民地獲得に乗り出す。そして二つの世界大戦が起こり混乱に翻弄されていく。三部形式になっているが、第三部の恋人に届かなかった手紙の束が印象的で心に迫った。
2020/05/30
ヘラジカ
著者の小説で読了済みなのは、かの有名な『朗読者』と『階段を降りる女』のみだったが、どちらもあまり好みの作品ではなかった。なのでこちらもクレスト・ブックスの新刊だから〜という半ば義務感のうちに読み始めたのだった。しかし、これが中々どうして、苦手意識を吹き飛ばすくらいに良い小説ではないか。初めはオーセンティックなロマンス小説かと思っていたが、第二部からはそれまで仄めかされもしなかったミステリーが現出し、好奇心が徐々に刺激された。秘密が明かされる第三部と続く独白も厚みがあり、最後まで非常に端正な作品だった。
2020/04/26
キムチ
シュリンクの作品は ほぼ一貫して同じく、特異なヒロインが存する。この作品、オルガという女性が語られるが 些か面白い構成で、彼女が生き、動くのは1部。2部になると とある流れで出会うフェルディナンドの語りの中で登場する。して3部は執念の末 入手した手紙の束でオルガが幻の如く動く。とはいえ、やはり圧巻はオルガのイメージと終生 恋い焦がれたヘルベルト。オルガの人生の最期を彩った少年アイクの秘密も表出。驚くのは圧倒的な読み易さと明快な骨組み。筆者がテーマとする「愛」「罪」「責任」が見事に配置されている。
2020/07/06
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