光を灯す男たち (新潮クレスト・ブックス)
光を灯す男たち (新潮クレスト・ブックス) / 感想・レビュー
パトラッシュ
芥川龍之介の『藪の中』を下敷きに、当事者と関係者の告白を「信頼できない語り部」の束として構成されている。3人の灯台守が忽然と失踪した事件から20年後、謎を追う作家の求めに応じた遺族の証言と当時の消えた男たちの回想が交錯し、船を照らす灯台の光が逆に人の心の闇を一層深くする。誰の言葉が信じられるのか、偽証でないのかわからず、最後に語られる真相と作家の正体も却って疑わしさを増す。それでも未亡人が作家の原稿を海に破り捨てる終点は、あえて結論を出さない芥川作品の未完結性よりも「心の真実こそ大切」という立場に繋がる。
2022/12/13
キムチ
或る英国ドラマで舞台になったコーンウォール。その男性的な海岸美と背景の薄暗い空、装丁そのままの情感が作の背景に有る。女性作家なれどもなかなかの筆力。芥川作品を思い起させる作風が興趣深い。実際の事件を土台にしつつも、設定はフィクション。灯台名も然り。事件当時とその後20年経た時間を交互に配し人間の心情が綾なす襞ひだを見せつける。灯台守り=”light keeper"だが原題は”The Lamplighters"深い人間性を見せる主任アーサーと明らかに凶悪なムショ出の男ら、その妻と家族が相互に光を灯している
2023/03/10
ヘラジカ
高水準のクオリティを誇っているクレスト・ブックスの中に、ここまでの凡作が追加されたのは残念という他ない。作者が実現しようとしているコンセプトはなんとなく分かるのだが(それも後半に入るとブレブレ)語りの技術力が到底追い付いていないように見える。迂遠なアプローチが何も結実していない。折角のミステリー仕立てにもガッカリさせられた。もう少し材料や調味料を少なくしてさっぱりした作品にした方が良かったのではないか。インタビュー形式が活きる推理小説でもなく、深層心理に迫る文学作品でもない。意欲だけが先走っていて半端だ。
2022/08/26
マリリン
1972年から1992年が霧の中を彷徨う。語り手は、神秘的なメイデン灯台で光を灯していたものの消えた3人とそのパートナー。特に灯台守が語る言葉から脳裏をよぎる情景が幻想的で、美しく作品を静かに見守るような装幀に惹かれる。様々な経歴を持ち家族や愛する人と離れ孤独の中で生きる灯台守たち。ミステリアスな色彩も感じるが、人間の闇と孤独の世界が身体に沁みこむ感と、濃霧が少しずつ消え視界が鮮明さを増すような展開も魅力的。聞き手の作家は...そうだったのか。
2022/10/10
雪月花
2022年8月に発行された本書は、1900年に実際に起きたスコットランド沖の灯台守失踪事件を土台として書かれているミステリー。忽然と姿を消した3人の灯台守と残された家族、それぞれの視点から複雑な関係がだんだん明らかにされていく。島の灯台での隔離生活は監獄の生活と似ていて、精神が蝕まれていくのか。同じ時間で止まった二つの時計の意味、単身赴任の夫を待つ陸の妻たちの秘密。それを小説に書きたくてインタビューに来る作家。でも実際の真相は小説を読み終わったあともわからず、もやもや感が残った。翻訳は読みやすい。
2022/12/23
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