蝦夷地別件 下 (新潮ミステリー倶楽部)
蝦夷地別件 下 (新潮ミステリー倶楽部) / 感想・レビュー
印度 洋一郎
下巻はいよいよ国後のアイヌ達が決起するが、北海道側の目梨のアイヌ達の同調が広がらず、松前藩の鎮圧軍の侵攻と共に終息する。え?と思ったが、話はそこからが長い。敗北したアイヌの怨念が、松前藩や幕府へと復讐する。しかも、アイヌの指導者が屈辱を偲んだ深謀遠慮も、次の世代には裏切りとしか映らず、復讐の鬼を生んだだけだった。そして、支援を頼んだポーランド人も又ロシア帝国の策謀に潰えていく。勝者も、敗者も、誰一人明るい最期を迎えない、殺し合いの結末が重い。
2019/10/11
have a plan
耳慣れないアイヌの名前や地名が並ぶ文面、しかも長編。読みきるのに大変な根気が必要でした。挫折しかかった時に作者の船戸与一さんの訃報もあり、これは何が何でも読み切らねばと奮起しました。歴史教科書では知り得ない蝦夷地の歴史。血を血で塗り替えるような惨劇を繰り返し、国というものが出来上がってきたのだと改めて思い知りました。
2015/05/14
よっちゃん
1789年はフランス革命勃発の年です。ヨーロッパ各国の貴族階級は革命の嵐におびえる。ポーランド貴族も。ロシアの南下戦略を牽制するためロシアに極東進出政策を奨める。すなわち日本侵略を説く。蝦夷地原住民に最新の銃火器を与え武装蜂起させ、最終的に日本を領土化する大陰謀。この構想にアイヌ抗戦派がまんまと乗せられるという、まさに国際陰謀小説なのである。文句なしに面白い。 三つ巴、四つ巴の虚虚実実の攻防戦。アイヌ民族の存亡をかけた戦い。しかし、運命は滅びにむかって容赦なく進行する。ラストはあまりにも残酷である。
2003/01/20
つちのこ
単行本購入。下巻。1995.6.20読了
1995/06/20
c
野付嶋の虐殺と共に起きるアイヌたちの絶叫(ペウタンゲ)は、如何にも船戸与一節で衝撃的なシークエンスであり作り物めいて思えるが、巻末の参考文献にもある「アイヌ民族抵抗史」によれば、史実らしい。それだけでなく、ツキノエ、セツハヤフ、新井田孫三郎と言った主要登場人物もほぼ実在する。作中で描かれるクナシリ・メナシの戦い自体、アウトラインは史実を外していないのである。にも関わらず歴史小説然としたところを感じられないのは、ハードボイルド的筆致もさることながら、やはり伝奇的想像力に下支えされたゆえと考えるべきだろう。
2017/12/16
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