蕩尽王、パリをゆく (新潮選書)
蕩尽王、パリをゆく (新潮選書) / 感想・レビュー
傘緑
「欲望の哲学」と題された『あら皮』の中でバルザックは「放蕩もまた才能を必要とする」と喝破している。浪費ではなく乱行でもなく、才能と修練のもとに”蕩尽”へと至る。その王道を駆け抜けたバロン・サツマこと薩摩治郎八。尽きることなきと思われた莫大な財産を、ものの見事に一代で使い切った彼の晩年は、どんなに尾羽打ち枯らしたものに見えようとも、どこか杜子春のような一大事を成し得た者の清々しさが漂っている。「わが青春に悔いなし」こう言い切る覚悟が、放蕩と並みの散財を別ける越えられない壁なのだろう。荷風散人とは対極の生き様
2017/09/26
星落秋風五丈原
細かいが、散財と蕩尽は意味が違う。蕩尽= 財産などをつかい果たすこと。すっかりなくすこと。費やし尽くすこと。散財=不必要なことに金銭をつかうこと。また、いろいろなことで金銭を多く費やすこと。蕩尽は使い果たす、全て無くしてしまうまで使うことだ。普通、人はそこまで思い切りよく金は使えない。ましてや、倹約好きのちまちました日本人は、できない。しかしやってのけた日本人がいる。木綿で巨利を得た貿易商の家に生まれた薩摩治兵衛だ。ちなみに三代目である。「売り家と唐様で書く三代目」を地で行ったことになる。
2023/09/20
harass
バロン薩摩と言われパリの社交界で活躍した日本人男性の評伝。皇族華族財閥の子息が海外で散財することはよくあるが、祖父父の蓄えた財産数百億を蕩尽、すっかり使い果たしたのは彼だけ。著者がこの男性の手記や対談の内容を検証推理しながら彼の半生を語る。当時の有名人とのつきあいや風俗などが興味深い。セレブ系文化人の元祖か。うーむ、どうも娯楽雑誌の連載だったそうで著者独特の語りが満載。自分は読んでいてどうも集中できませんでした。
2014/10/12
白義
実業家一族の三代目、戦前のパリで最も羽振りの良かった日本人、彼が歴史に残したその偉業はごくシンプル「一族から受け継いだ資産を使い潰して超豪遊」!自分が働いて得たものではない大金で社交界に羽振りを撒き散らす、これこそ文化にその名を刻む快男児の生き様。そんな稀代の放蕩児薩摩治郎八の生涯を、彼の誇張癖のある証言から真実をつかもうとする歴史探偵的に追う傑作評伝。コナン・ドイルやアラビアのロレンスとの出会いの逸話の真偽や、藤田嗣治との交友と大パトロン時代といった華やかな時代の空気をたっぷり再現した読み応え大の一冊だ
2018/10/21
石橋
己の美を追求してすっからかんになるまで浪費し、尚且つその行為の正当性を疑わぬ精神、それこそがセレブリティ。清々しい読後感である。
2016/08/30
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