小林秀雄全作品 21
小林秀雄全作品 21 / 感想・レビュー
たまきら
自分が持っているボロボロの本は、昔画家の友人からもらったものだ。日本に帰ってきて途方に暮れていた自分がこの本をもらって感じた戸惑いは、その当時自分には美を求める心がなかったからだ。そして、今もない。自分は小林秀雄の冷たく構成された文章が苦手だ。何度読み返しても同じ気持ちなのだが、形見となったこの本は今も本棚の片隅で自分に何かに気づけと訴えているような気がする。
2019/06/29
のり
小林秀雄の全集から月に1冊読み、何年かかけて全集を読破する試みを始め、この本が記念すべき1冊目です。今作は54年~58年のものからなるので、中期の作品群になります。表題作は小中学生に講演したものを活字に起こしたものですが、平易な文でありながら、小林秀雄の美に対する考えが凝縮されている名文であり、今作の中ではやはり、一番の文章だと思います。一輪の花の美しさを感じるには、豊富な知識よりも、豊かに感ずる優しい心持ちを持つことが肝要であり、立派な芸術は何時でもそれを教えてくれる。また読み返したい一文です。
2015/01/30
aoi
私が好きな部類の「読みにくい」文体。リズムの良さと内容の深さのギャップに、初読では文章上を行ったり来たりすることになる。彼自身が『喋ることと書くこと』で〈本は、歌われたり語られたりしなければその真価を現す事は出来なかったのです〉と書く、その要素をもつ人だと感じる。繰り返し読まれて輝くタイプの作品。
2016/08/13
devour
この巻はちょっと緩んだ文章が目立つけど、ある種完成した批評文を捨てて、試みを新たにしようとしているのは感じられる。民主主義への警句、歴史や言葉への推参、後の文章を予兆させるような思考の萌芽が散見される。こういう読み方はよくないのかもしれないけど。
2010/06/19
再読。小林は初期の批評から当時の最新テクノロジーである「映画」についての言及が多い。「映画」というリアリズムに対しての「文学」への擁護という単純なものではなく、同時に「文学」の存在意義そのものに対する疑義を敏感に感じ取っていた。そういう意味では、「文学」の不可能生(=危機)の中で批評を始めなければならなかった。問題は、「文学」はくだらないと言い切れないこと、そこから自意識の悪循環に囚われる。小林が菊池寛を尊敬していたのは菊池が「文学なぞくだらない」と内心思っていたからではないかとも思う。
2023/08/23
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