福永武彦全集 (第8巻) 小説8 海市
福永武彦全集 (第8巻) 小説8 海市 / 感想・レビュー
かぜふけば
漁村の海岸での二人の出会いから始まり最後の場面も同じ海岸で幕を閉じる。物語はずうっと主人公のわたしの視点で描かれる。途中、他の登場人物の挿話が時を前後しながら現れ、物語が肉付けされることで面白さが一層増した。最後だけは安見子の視点で描かれる。初めて知る彼女の深い思いが、胸に深く静かにしみいってきた。ぼおっと海岸に立つ安見子の姿が蜃気楼のように浮かび上がってくる。最後の場面は秀逸です。端正な文章は流れるようで、品の良さを感じました。
2021/11/24
Penn
学生時代以来の再読。安見子という不思議な名前の女性が出てくる物語、といった記憶しかなかったが、登場人物の年齢を超えた今、読み返すと非常に滋味深く、あの頃ではよく理解できなかったのも無理なかろうと思う。固有名詞を敢えて省略した複数の断章が、メインの物語の周辺を彩り、「人間の魂の中の和絃のようなものを追って、小説の全体が読者の魂の中で共鳴音を発しさえすればいい」という作者の狙いは、発表されてから50年後の現代でも十分に成功している。万葉集に「皆人の得難にすとふ」と詠まれた安見子の、その名の通りの魅力が眩しい。
2016/03/13
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