花闇
花闇 / 感想・レビュー
ケロリーヌ@ベルばら同盟
ぴんと反るつま先が、真っ白な脛が、漆黒の闇に沈む。翻る手首が、指が、熔ける。婀娜に嘲笑う美しい貌だけが舞台に残る…。幕末から明治へと移行する動乱の時代、大衆を魅了した美貌の女形澤村田之助の生涯を、大部屋役者市川三すじの視点で綴るこの作品は、綺麗で不吉な細工を施した螺鈿の小匣のようだ。そこには、とてもうつくしいものが閉じ込められている。翅を毟られ、肢を捥がれた尊くも無惨なものが。傍目に晒さず、抱きしめていたい。けれど外に出して愛でてもみたい…。それは人の心を掻き乱し、奥底にある嗜虐を浮かび上がらせる魔物だ。
2021/07/27
キムチ
花・・華であるかの装いで肌にまつろう闇。それこそ、筆者が描きたいと欲する田乃介の芸術性なのだろう。当然ながら、そういった些事末梢を綴った書物がないから筆者の恐ろしいまでの夢想。だが読者は酔い、その痛み、身上を滅ぼすまでの燃え方に身を焦がされてしまう。文章は淡々と綴られているのに行間のメラメラは皆川先生の真骨頂。つい、一気読みしてしまった。終生、脇役を好み、豪奢な装いをまといつつも庶民の楽しみであることを訴え続けたかのような田乃介の想いが何故か染みる。三すじという語り部の声が訥々と響く情念が侘びしく妖しい。
2014/05/02
sui
14-87。幕末から明治にかけて活躍した実在の歌舞伎役者・澤村田之助の波乱に満ちた生涯を、付き人三すじの目を通して描いた作品。幼い時から美貌と才能に恵まれ、歌舞伎の為に生きてきた田之助が、壊疽で四肢を失ってまでも舞台に立ち続ける凄まじさ。その執念深さは周囲に敵も作りながら、それでも彼にはそれしか術がなかった。そしてそんな彼を敬い、愛おしみ、時に憎みながら最期まで傍にい続けた三すじの思い。当時の情勢に重なるように彼らの不安定で儚い生涯に、最後は静かな涙が伝います。こんな人が生きた時代を思うと堪らない。
2014/10/05
さや
圧倒されました。言葉が出てこない。
2013/11/16
Ruto
図書館。皆川博子作品。歌舞伎の世界を描いた作品。 恋紅」に登場した歌舞伎役者がメインで登場し、悲しくも妖しい世界が展開する読み応えのある小説。
2020/04/04
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