一階でも二階でもない夜: 回送電車2
一階でも二階でもない夜: 回送電車2 / 感想・レビュー
踊る猫
リアルさを求めて、丁寧に書き込めば書き込むほど表現は非リアルに近づく、のかもしれない(例えば、大友克洋が時折展開する絵のように)。堀江敏幸のエッセイも、多様な本を引用して詳細に思うところを詳述し、目に写った風景に言及していくにつれてその書き込みが生み出すものはリアルから乖離し、独自の味わいを持つ堀江ワールドにたどり着く。この作家の丁寧な本の読み方、そして語り方に改めて言葉を失い(呆れたわけではない。念の為に)堀江ワールドを堪能する。だが、ところどころでこの作家は世の怠惰に怒り、不穏さに抗う姿勢を見せもする
2021/11/03
踊る猫
抜群の安定感を誇る。そして、この文章は良かれ悪しかれこちらを何処にも連れて行ってくれない。堀江敏幸が書くフランスの風景は(地理的に当たり前と言われればそれまでだが)日本の例えば銀座の風景と同じで、あくまで堀江敏幸という書き手を通した土地であり、そこに例えば多和田葉子が出くわすような異物感は見られない。どちらが良い、という問題ではない。堀江がそれだけ自分を確かに持っているということであり、それは優れた先達である須賀敦子にも似た資質である、ということなのだろう。ページ・ターナーとは真逆の、陶酔させる類の退屈さ
2019/08/22
ぽち
極めて遅読な私が例外的に「貪ってしまう」のが堀江先生の文章で、やっぱり私は音楽でも文章でもここではないどこかへ連れて行ってしまわれるようなものが好きなのだけど、4つに章立てられた本書では日本での身辺雑記から始まりあれっ?というつかみ所のなさから、書物を扱う2章、フランス滞在時を扱う3章へといつのまにかなだらかに、意識している時間の感覚が浮かんでいく。いろいろな媒体で発表時期も意外に隔たっている掌編を一冊に纏めた本書ですが、狭い空間で新聞を折り折り、10行くらいを断片的に読む悦楽というものも、たしかにある。
2014/10/25
マサ
散文集その2。批評はその対象についてある程度知っていないと興味がわかないと思っていたが…。ここで語られる作家やアーティストは初めて知る人も多かったが、いくつかのエピソードから作品の背景や作者の人となりが浮かび上がってくるようだった。特にロベール・クートラスについての「無神論者の聖人」は読後すぐに作品集「僕の夜」を手に取りその不思議な魅力に触れることができた。こういう広がりがうれしい。
2024/10/15
eri
ぼうっとしていては読めない文章だとつくづく感じる。ラジオのチューニングを合わせるみたいな意識のチューニングを必要とするような。やっと少しずつ読むことに慣れてきたような気もしている。「すいようえき」「東京に雪が降ると文章にも雪がふる」「帽子を取って抱けばいいのに」など、タイトルの付け方がいい。
2012/05/15
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