ミーナの行進
ミーナの行進 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
小川洋子の作品にはやや珍しい純リアリズム小説。ポチ子のエピソードにしても、かなり奇想天外ではあるものの、基本的にはリアリズムの枠組みから逸脱するものではない。1972年は、作中にも描かれるようにミュンヘン・オリンピックの年だが、小川洋子にとって特別な思い入れがあったのだろうか。作者は当時10歳。ちょうどミーナの年齢だ。芦屋の洋館を舞台に、岡山からやってきた朋子が過ごす夢のような1年。ある意味では、そこでの日常が描かれるだけなのだが、その時間の彼方に、我々読者もまた静かな郷愁と感動を共にする物語である。
2012/11/18
遥かなる想い
小川洋子の小説には毒があるのが多いが、本作品は不思議に穏やかな雰囲気を醸し出している。ミュンヘン五輪における男子バレーボール金メダルの話も懐かしい。「ミュンヘンへの道」、私も見ていました。
2010/09/11
pino
1972年、ミーナと朋子が過ごした一年。邸宅から見えるカバのいる風景。光線浴室。フレッシー。風変わりな逸話の数々は外国のおとぎ話を想わせる。それは、大概、悲しく悩ましい。家族たちは抱える思いを品物に変え、そっと仕舞っている。鏡台の引き出しに、机上に、ベットの下に。静かな毎日に流れる不穏な気配。だが・・。この年は、オリンピック、ジャコビニ流星群に湧いた。歓喜と喪失感。そして、役割を果たし終え旅立つもの。1972年は後のミーナに答えをくれた。マッチ箱の最後の物語。天使の裁縫箱。ポチ子。みんな欠けてはいけない。
2013/05/21
風眠
「全員揃っている。大丈夫。誰も欠けてはいない。」家庭の事情で1972年から一年間、親戚宅で暮らした朋子がつぶやく。見つめる手元には、親戚一家と写した記念写真。ひとつ年下のいとこ・ミーナと過ごした特別な日々の思い出。芦屋の邸宅で裕福に暮らしている一家にも、表面には出てこない事情があって、必ずしも白黒がつけられる事ばかりではないと知ってゆく朋子。少女の頃をロマンチックに回想しながら語られる物語の中で、カバのポチ子がいいアクセントになっている。と同時に、幻想的なノスタルジーを連れてきてくれる存在のようでもある。
2014/01/19
めろんラブ
温かい涙がとめどなく流れて、流れて。小川作品には透明感のある冷たさを感じる事が多いけれど、こちらはふんわりとした夕日のような温かさが物語全体を包んでいます。内容はもちろん、登場する人・動物・家・車・本や小物に至る全てのものに作者の愛情が丁寧に込められているからかと。中でもポチ子!身もだえするほどの愛らしさ。この物語の根底にある「愛」を形にしたらポチ子になるのでは、と思う程。ほのぼのだけでなく、小さな棘が家族を苛むあたりは小川さんらしくて◎。装丁・挿画も◎。もう、語りつくせない魅力が満載!
2010/02/17
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