アイロンと朝の詩人: 回送電車3
アイロンと朝の詩人: 回送電車3 / 感想・レビュー
踊る猫
初読の時は思いつかなかったのだけれど、堀江敏幸が良質の文学者たちの血統を受け継ぐサラブレッド(?)であることを伺わせるエッセイ集だと思う。金井美恵子に代表されるような典雅なエクリチュール、古井由吉に代表されるような内省、そして田中小実昌を想起させるようなユーモア。その声は小さい。だが、しっかり眼前の対象を見つめ、そして言葉を発している。むろんユーモラスなエッセイも読み応えがあるが、私は彼が引用する本の存在から多くのことを教えられてきたと思っている。フィリップ・フォレストと大江健三郎についての文章が印象深い
2021/11/04
踊る猫
エリック・サティやブライアン・イーノのアンビエント作品(もしくは坂本龍一のそれら)にも相繋がる、空疎なようでいてその実味わいが半端ない筆致は流石。だが、ここに来て書き手としての自意識が問われているようなエッセイが増えていて、興味深く思った。紋切り型の(池澤夏樹的な)良心を表明したもの、と粗略してしまえばそれまで。だが、ツイートや投稿でついつい言葉を粗雑に扱ってしまいがちな私は堀江の慎重な姿勢を支持したい。第三巻では小島信夫との出会いなど、ユーモアも少し増えているように感じられる。こういうエッセイを読みたい
2019/08/24
くみ
清潔感漂うエッセイ集。朝読むと、頭がしゃきっとする。特に夏の朝に似合うと思いました。高尚な文学論には感心するばかりで、時折入るウィットには目上の方の冗談に笑っていいのか、やり過ごした方がいいのか周りを確かめてしまう、そんな戸惑いもありました。そんな中、表題作「アイロンと朝の詩人」には堀江さんの想像力と男性であることにはっとして(それまで仙人のようだった)微笑ましくあり、色っぽくもありました。堀江さんを身近に感じられて嬉しかった。また他の作品も読んでみたいです。
2018/06/08
マサ
「回送電車」の3冊目。静かで落ち着いた雰囲気の中にほのかなユーモアが感じられる文章、その安定感にほっとする。批評は自分には難解なものもあったが、今回は紀行文のようなエッセイのような短編小説のようなものが面白かった。「スポーツマンの猫」や「ファラオの呪いが町田まで。」は特に。翻訳について書かれた文章も目からうろこで刺激的だった。
2024/10/30
kthyk
「雪あかり日記」を書いた建築家谷口吉郎の建築作品、馬籠の「藤村記念堂」のことを作家堀江敏幸が「ほの明るさの記」と題したアンソロジーにまとめ「アイロンと朝の詩人」に載せている。 建築は戦後まもない頃の貧しい寒村、その地の出身者のために、この地に住まう村人の手で、まるで中世の僧院を建てるがごとく建設されている。 美濃と木曾の境にある馬籠は藤村の誕生の地、美濃に生まれた堀江はこどもの頃、なに知ることなくこの建築に触れている。そしてその時の印象を以下のように書いている。ー>
2020/10/17
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