冬の夢
冬の夢 / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
「メイデー」は落魄れて情けを乞うゴーディーに対してのイーディスの嫌悪感や幻滅は、父にそうされた時に、父親やそんな下らない男に怯えていた頃の自分を強烈に憎んだ事があった時を思い出しました。余りにも煌びやかで淋しい寓話でもある「リッツくらい大きなダイヤモンド」は「この世界にはダイヤモンドのほかには何も存在しない。ダイヤモンドと、それからおそらく幻滅というみすぼらしい贈り物のほかにはね。(中略)まあ、いいさ。そんなものは例によって知らん顔してうまくやり過ごそうじゃないか」という言葉が今を生きる者として胸を打つ。
2017/03/02
キムチ
「ギャッツビー」でつとに有名な筆者・・そして春樹が敬愛してやまない彼。一読すべきと思い、結構すんなりその世界に入れる。というか、春樹が影響を受けたというだけあって、どこまでジェラルドでどこから春樹か線引きしがたいほどと感じた。5編短編が入っており、後書きにあるようにプレ・ギャッツビーともいうべき空気を描いている。筆者が25歳前に一気に書き上げたとあるから天才・早熟のペンが流麗に流れている。春樹が推すように、私も「ベイビー・パーティ」が押しかな。訳者も素晴らしいけれど、原文の味わいも素晴らしいだろうと思う。
2014/06/22
春ドーナツ
私の愛読書です。大切に再読を重ねて来ました。先ず装丁の話から。函から取り出した時の新鮮さ、ハッと心が打ちふるえることに変わりはありません(裏表紙もお見逃しなく)。表題作を読む度に「対岸の緑色の灯り」へと思いが馳せます。「ああ、良いなあ」と心が純粋になるのは、例えば、次のような一文を目にした場合です。「月が指を一本その唇にあてると、湖面はしんと静まり、淡い色合いの澄み渡ったプールとなった」あるいは「ややあって彼は振り向き、二つのつぶらな、スタッカートのように切れの良い瞳に、自分が向き合っていることを知った」
2018/07/07
速読おやじ
フィッツジェラルド短編の中ではマイベストなのが「冬の夢」。いやあらゆる短編の中でも一番に近い作品かもしれない。なぜにそんなにこの作品に惹かれるのかって、音楽のような調べをもつ流れるようでいて美しさを備えた文章だ。グレート・ギャッツビィの凝縮版のような感じも受けたが、主人公の男女をスコットとゼルダに置き換えて考えると、更に物哀しい。フィッツジェラルド作品は彼の生身の人生とは切り離せないのか。そして、単純にお伽噺として面白かったのは「リッツくらい大きなダイヤモンド」。絶大なる富を持った男の結末は・・・
2013/07/17
そうたそ
★★☆☆☆ 初めてまともにフィッツジェラルドを読んだ。読んで思うに、村上春樹の好きそうな作風だよな、と。文体には特に村上春樹のクセが出ているという事はなく、至って自然であったように思う。「冬の夢」は確かに傑作。流麗な文体で綴られる文章にどことなく儚さを残す結末。50ページ程の作品であるが、これ以上削るところがないというか、全く無駄のない作品い感じられた。一方でそれ以外の作品は個人的にそれほど良いものとは感じられなかった。どうも、中身のない作品に感じられてならない。相性の問題なんですかねえ。
2013/07/19
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