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数えずの井戸

数えずの井戸

数えずの井戸

作家
京極夏彦
出版社
中央公論新社
発売日
2010-01-25
ISBN
9784120040900
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数えずの井戸 / 感想・レビュー

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優希

単行本で再読です。「数え」で覗く井戸、「数えず」で井戸から見上げる風景が講談のように語られているのに引き込まれました。皿屋敷の怪談がベースになっていますが、そんな一言では済ませられない様々なドラマが詰まっています。数える人と数えられない人、欠けている人と満ち足りている人、生きる人に狂う人という6人が揃うことで起きる惨劇。真実は井戸に呑み込まれることで完成されるのが仄昏い雰囲気を感じさせます。その闇が寂しい読後感として残りますが、そこに魅せられるんですよね。

2017/07/18

chantal(シャンタール)

何かが欠けていると常に満たされぬ男、今あるものが全てと何も欲さぬ女、手に入れられる全てのモノに執着する女、誰かに褒められたいとそれだけを願う男・・全てのものが黒く大きな口を開け、虚無地獄へと誘う番町青山邸に引き寄せられるように集まった。怪談番町皿屋敷をモチーフとしたこの儚くも美しい、そして妖しい物語に最後まで引き込まれた。人はどうしても数に縛られる。お給料だったり、貯金だったり、勝利数や歩数やとにかく数字に溺れる毎日。数字が全てではない、と思いつつ、このレンガ本を読了した時の爽快感は拒否出来ない。

2022/03/04

kariya

此方に足りるを知らぬ男が、彼方に計るを知らぬ娘がいた。二人が出会い程なくして、屋敷は屍が累と積まれ、討たれた娘の怨みの声が多くの耳目に伝わった。真実は誰も見えぬまま。井戸の底には暗き洞、多く人の胸にも在るが、埋める思いは人様々。虚ろのままで、無垢で、忠義で、慾で邪心で、埋めた数多の洞がぶつかり合って業を産み、無惨な仕舞いをもたらした。目に易き形は一つもあらねど、善き者や心が禍事を呼ぶのもまた一つの世の有り様。微かな鈴の音と共に、測られぬ様子が好ましいと、哀れな娘が見つめ続けた空の青さが目に残る。

2010/03/11

ケイ

先月、姫路城を訪れた折に、姫路城内に「お菊の井戸」があって驚いた。青山鉄山の名もあり、もともとはここらしい。番町ならぬ播州だ。主人公の播磨の名前も、播磨灘からとっているのかと邪推した。同じ四谷怪談を元にした「嗤う伊右衛門」と比べると、読み込ませ方が弱いように思う。ただ、ひたすら菊が哀れだった。播磨の言うように、人の命より物が大事などと言う事はない。数を数える人の愚かさを哂っているのだろうか。数えるから足りなくなるのか…、なるほど。

2014/02/04

ちはや@灯れ松明の火

地に穿たれた底知れぬ虚ろな穴、人心を蝕む瘴気は其処から吐き出されたのか若しくは人の邪心を吸い集めては闇を湛えて凝るのか、誰も知る者はない。死屍累々たる惨劇の場から皿を数えては怨む女の幽霊話は生まれた。其処に何が在ったのか。月の如く満たされ続けることのない心の虚を数える男と数えぬ女、欲望と無欲、保身と犠牲、自尊と卑下、善意と悪意、後悔、悲哀、そして狂気、各々の色が入り混じれば漆黒へと変じ全てを呑み尽くす深淵となる。真実は古井戸へと吸い込まれそして巷説が吐き出される。もう誰も知ることはない。

2010/05/02

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