コザック ハジ・ムラート
コザック ハジ・ムラート / 感想・レビュー
ネムル
あまりにも瑞々しい初期作『コザック』推しで。その魅力をエチカという点から解説する山城むつみの文章が参考になる。コザックが初めて見るカフカーズの山山はかくも美しい。「自分から二十歩ばかりのところに、華奢な輪郭をもった、清く、まっ白な、巨大な堆積と、その頂きと、遠い空のつくりだす、くっきりとした、夢のような、空気のような線をみとめた。そして、彼が自分と、山や空との距離と、山の巨大さとを完全に理解したとき、そして、その美の限りなさを感得したときには、彼はそれが幻でないか、夢でないかと驚き怪しんだくらいである」。
2013/08/13
Toska
個人的にはトルストイ文学よりもロシア史への関心が勝る読書であったのだが、風景や人物、心理の描写の素晴らしさはやはりトルストイならではと思う。訳もいい。広大無辺なロシアの中に包摂される多様な世界。チェチェン人など山岳民族のみならず、彼らと接して暮らすコサック(カザーク)たちでさえ中央から派遣された「ロシア人」を他者としてしか見ていない。ペテルブルクなどの高官連中との格差はなおさら大きい。
2023/12/13
のうみそしる
主人公が大都会での暮らしで身につけた虚栄心や功名心が僻地での生活によって消え、美しい大自然や、そこに暮らす人々のたくましさに感化されて、できることならこの地でコザックの一員になりたいとまで思うようになる。マリヤンカへの恋慕がしだいにふくれあがっていく様子(チラ見したり、家の回りをウロウロしたり)が、痛々しいほどに純粋な愛をよくあらわしている。童貞かよ。 現代で言う、バックパッカーによる「自分探し」のようであり、少々自分を省みて恥ずかしくなる。簡単に人間はわかりあえない。 ハジ・ムラートは、物語中に一切の
2016/04/24
やまべ
この作品がトルストイの文学のなかでどういう位置づけにあるかなんてことは実のところそれほど重要ではなくて、何となく、靴の下で枯れ枝がぱきぱき折れる音が耳に残っているような気がする、というのが重要なのだ(いや、そんな場面があったかどうかさえ定かではないけど、何となくそういうイメージで)。それにしても、日常の些細な情景から、物語全体が想起される『ハジ・ムラート』の構成はかっこいいよな……。
2012/02/13
刳森伸一
カフカースものを2篇収録。コザックの逞しさや実直さ、美しい自然などが心打つ。特に「コザック」での描写は瑞々しくていいが、結局よそ者でしかなかったオレーニンにも同情する。「ハジ・ムラート」は暗い基調だが、構成は素晴らしい。
2013/09/11
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