魔法飛行
魔法飛行 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
やっぱ川上未映子はいつどこででも川上未映子なのだと思うエッセイ集なのだった。これは『発光地帯』の続編、第2弾なので、知ってる読者には、ああ続編が出たのねとわかるのだけど、そんなことは知らないでネットで注文した読者は、だまされたようなそれでもまあいいかという気分になる。続編ということなので、ここでも基本は食べ物のエッセイのはずなのだが、あまりそうとは思えず、著者の未映子さんも時々はその事を想い出してはハッとしたりするのも愛嬌。それからこのエッセイが中学生から90歳近くの読者までと、幅広いのも無理もないなと。
2014/09/05
どんぐり
今から10年前の2010年2月~2011年7月に至る日記的エッセイ。小説やコラムの執筆のほかに編集者との打ち合わせ、講演、そして2週間に1回の精養軒のお弁当付き読書委員会。作家は基本的に書くことが仕事だ。その日常のなかに歯医者に行き、料理をし、食事をし、映画や観劇の話も出てくる。この時期の出来事としては、東日本大震災がある。直接的な出来事は記されていないものの、生と死への想いが見え隠れする。→
2021/10/20
hiro
震災を挟んで、ほぼ同時期に書かれた川上さんの2冊のエッセイ『人生が用意するもの』と、この『魔法飛行』をいっしょに図書館で借りて併読した。 『人生が用意するもの』は週刊誌と新聞に連載された少し‘よそ行き仕様’なのに対し、こちらはウェブ連載なので、詩があったり、字数がバラバラだったり、題名のつけ方も自由で、こちらの方がより川上さんらしく感じた。このため、川上ファンでないと、少し読みづらいかも知れないが、川上作品を読んで慣れてくると、この文章を読むことが気持ちよくなり、声に出して読みたくなってくるのが不思議だ。
2012/11/06
Y
ダイナミックな言葉の連なりで繰り広げられる文章を読んでいたら胸が弾んだ。知らず知らずのうちに縛られていたしがらみから放りだされて、着地点のわからない場所にどこまでも飛んで行ってしまいそうな自由な心地。この本に度々出てくる感傷を私は知っている。言い当てられた瞬間に行くあてのなかったはずの感傷は、言葉という形を手に入れた瞬間に成仏したような気がする。素敵なエピソード満載だったのに、舌をかんだ話があまりに衝撃的でそればっかり思い出される。痛みのインパクトは強いなぁ。
2015/10/09
風眠
いなくなるなんて考えられないくらい近しい友人を亡くした悲しみを、作家として理性的に書こうとしているのだけれど、それでも、どうしようもなく心がこぼれてしまう寂しさ。そんな慟哭の中にある『しかし世界には信じられないくらいにエレガントな音楽が絶えず流れつづけていること』という美しいタイトルのエッセイは、文章と言葉の静かさが逆に、悲しみに耐える切なさを連れてくるようだった。ほとんど句読点の無い文章には、手が心に追いついていかない必死さが現れていて、気づいたら私は泣いていて、その文章を何度も何度も目で追っていた。
2013/05/10
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