闘う文豪とナチス・ドイツ - トーマス・マンの亡命日記 (中公新書)
闘う文豪とナチス・ドイツ - トーマス・マンの亡命日記 (中公新書) / 感想・レビュー
nobi
日本語訳の全集で十巻、注釈含めて一万頁に及ぶトーマス・マンの日記。2百頁程の新書版でそのエッセンスに触れることができる。ドイツに留まった人物、亡命者、戦局等々という構成。年代を追ってなくてもナチス中心の激動の時代が池内氏の歯切れよく次々と変わるシーンによって迫ってくる。どの頁にも重い事実。妻の両親の屋敷と一級の蒐集品のナチスによる没収、ブッデンブローク館のあったリューベック空襲、ナチスへの抵抗運動の学生の兄妹…。日記に書かれていないこと過剰に書かれていることにも注目。そこに晩年のマンの悲哀が見え隠れする。
2018/04/22
キムチ
マンほど肖像を残した作家もいまいとある。確かに!端正な風貌、佇まい、知的な香りに満ちている。筆者は1万頁余りある日記を丹念に読み解き「ナチス政権下の独逸から10年余になる亡命の時間」を過ごしたマンの目線で書きたくなったと。トニオ・グレーゲル、ベニスに死すしか読んだ事がない難解な作家との知識のみ。だが日記の内容は飛びぬけたドキュメントタッチ。当時の作家とのやり取り、種々の国際的事件、息子の自殺、自らの老いの哀しみまで探求している。個人がいかに無力、かつ良心的推考の困難があるかを述べた下りが痛い。
2017/10/29
かごむし
マンを知る本というよりも、文豪の目から見た動乱の世界史というべき内容。ナチスによる政権掌握後、亡命を余儀なくされたマンは、精力的に発言すると同時に、将来、公開することを前提にした日記を書き留めていった。ドイツを中心に各国の利害が紛糾する国際情勢。悪意ある宣伝、錯綜する情報。その中からマンは真実を見極めようと目をこらし、綴っていった。大戦後にレッテルを貼りながら振り返る歴史ではなく、まさに現在進行形の希望と絶望が入り混じる中での息づかいが聞こえるような歴史を眺める思いで非常に興味深く読み終えることができた。
2018/11/02
kaoru
ナチスに追われて亡命した大作家トーマス・マンの膨大な日記を池内紀氏が解説した本。芸術家肌のマンが亡命先から故国の危機に立ち向かう姿が描かれる。マンとカフカの意外な関係、長男クラウスの悲劇、ブレヒトやヴェルフェルとの確執、写真を意識するマンなどどれも興味深い。温かく受け入れてくれたアメリカのマッカーシズムによる変質をマンはどう捉えただろう。「恵まれた亡命」をしたとはいえ、戦後も故国に住むことのなかったマンの生涯を顧みるとき、激動の20世紀を生きたこの卓越した作家の苦労を思わずにはいられなかった。
2017/08/31
ロビン
『魔の山』や『ブッデンブローグ家の人々』などで知られるノーベル文学賞受賞作家トーマス・マンの、1933年から1955年までの日記を元に綴られたエッセイ。第二次世界大戦や亡命先であるアメリカでの「赤狩り」など激動の時代を生きたマン。淡々と記された日記から冷静で慎重、そしてナチスの本性を見抜き一貫して反ナチスの姿勢を貫いた鋭い知性と意志の強い人柄が、時折覗かせる人間味と共に浮かび上がってくる。ハムスンの例の様に、芸術家としての能力と悪を見抜き糾弾する能力は別で、両方を兼ね備えたマンの様な人は稀なのだと痛感。
2020/01/18
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