鍵 (中公文庫 た 30-6)
鍵 (中公文庫 た 30-6) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
これが『中央公論』に連載され始めた時(1956年)、「大胆な性の叙述が大きな反響を呼び、議会でも問題にされた」そうだが、実に隔世の感がある。そもそも本編には具体的な性描写は全く見られない。すべては妄想の産物であり、その意味では極めて観念的な小説であると言っても良い。最初は主人公の、そして次には妻の郁子の、そして最後に読者は木村や敏子までを含む四者四様の思惑に搦めとられていくのである。一見複雑に錯綜しているように見える主人公が実は最も単純だったのではないかと思えるほど。まさに性の深奥は陰翳にこそある。
2015/07/31
匠
子どもの頃にこの作品の映画版を観てしまい、わけもわからずその淫靡な雰囲気だけが頭に残っていた。今読み終えて、まず思うのは「鍵」というタイトルが、色々なものにかけてあってあまりに秀逸だなと。そして老いて後の歳の差のある関係で避けては通れない問題の生々しさ。嫉妬をマゾヒスティックに利用する夫の哀しさや、間接的な羞恥心と興奮が背中合わせな愛情を理解している妻の心の奥底を想うと、単なる変態夫婦とは片付けられない魔性も感じ、ゾクっとした。似たような作品を今までいくつか読んだが、おそらくこの作品が大元だったのだね。
2013/08/26
Tsuyoshi
主に性生活について夫婦の日記が交互に綴られている。日記を読まれることを前提として互いの性癖や願望を伝え合いエスカレートしていく様は異常性の中にも愛情が感じられて微笑ましい部分もあったのだが、夫の死後に妻が語るそれまでの経緯や心情の変化、夫よりも何枚も上手をいくやり口には唖然とさせられてしまった。
2018/05/30
らむれ
さ、さすがは天下のエロオヤジ、谷崎様~!大変面白うございました。夫婦の駆け引き、母娘の嫉妬、若いツバメ・・・はい、ご馳走様でした。素敵な人妻のファムファタルっぷりに満足です◎
2017/03/01
青色夜ふかし
綾小路きみまろの漫談、伊丹十三の映画「お葬式」に近い世界感。中高年の性、夫婦間のタブーを赤裸々にコメディタッチに描いた作品。●舞台は昭和初期の京都。中年夫婦と旦那の部下。夫婦が認める日記で物語が展開する。 ●谷崎潤一郎の古風な重ね文字を交えた文章、艶のある肉々しい棟方志功の挿絵の版画も見どころ。
2018/06/29
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