内なる辺境 (中公文庫 A 3-2)
内なる辺境 (中公文庫 A 3-2) / 感想・レビュー
高橋 橘苑
Wikiによれば、晩年の安部は司馬遼と仲が良かったらしい。司馬遼と言えば若き日、その昔匈奴と呼ばれた大草原の遊牧の民に憧れ、モンゴル語の大学に進み、国民的歴史作家の枠を超えて、俯瞰的に日本という国を考え続けた人である。本書によれば、遊牧民の功績は、国境を破壊し、国境の内側に閉じ込められた独自の法則を破壊して、時間認識を手に入れたとある。普遍への第一歩である。キーン氏の解説に、「安部氏も罵られたコスモポリタニズムの勝利を期待しているようである」が、微量であれ内なる辺境を持つことは、現代人の良心であると思う。
2015/03/08
またの名
「カフカはユダヤ的な心で書いたがそれを超えて人類に呼びかけるものを持っていた」式に特殊から普遍へと唱える紋切型を拒否する作家は、もちろん単純な二項対立なんて弄しない。遊牧民は農耕民の領土宣言と同時に生まれ侵入者ユダヤ人という毒素は本物の国民という正統神話自身の内部からにじみ出てきた己の体内の毒、と書く。それゆえ「ともかく正統意識を強化し確認するために、有効な異端のイメージがあれば、それでじゅうぶんなのだ」。ミリタリー装束が正統の平和主義を挑発してるように見える構図もそんな単純じゃないと気づかせるエッセイ。
2017/05/12
ドン•マルロー
最高のエッセーである。
2018/07/28
amuy
古本屋で購入した安部公房のエッセイ。話題は難解なナチスについてやユダヤの迫害。これらを通し、現代における異端の本質の考察を、安部公房らしいリズムで描かれていた。好みの一冊。 「もし肉食に野蛮と下等のしるしを見、装飾に洗練と気品を見るなら、口から鮮血を滴らせている獣人は、まさに人間自身の姿にほかなるまい。ゴリラ的容貌のほうが、実ははるかに柔和で気品に満ちたものかもしれないのだ。」
2020/11/30
もっひぃ
安部公房さんのエッセイが3編載っている。彼独自の視点から、ミリタリールック、民族と国境について、ユダヤ系作家の作品について考察していく。「流行というものは、まず他人と違った格好をすることによって、自己主張したいという気持ちに取り入ることから始め、次に、自己主張している連中の仲間入りをすることで、時流に遅れまいとする気持ちをあおり…」納得。
2017/02/05
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