犬が星見た: ロシア旅行 (中公文庫 た 15-4)
犬が星見た: ロシア旅行 (中公文庫 た 15-4) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
著者の武田百合子さんは作家、武田泰淳夫人。本書は夫、泰淳と中国文学者の竹内好(泰淳の友人)と共に1969年に約1ヶ月ソ連を旅した時の紀行日記。タイトルは、秀逸だが「犬が星を見ているように、物の値打ちが分からない私」というくらいの意味だろう。百合子さんは、天真爛漫というか、あらゆることに偏見を持たず、平明な好奇心を全開にして旅を続けてゆく。『富士日記』にも見られるような克明な記録癖が彼女の特徴。ただ、随所に(悪くない意味で)時代を感じることも確か。なお、彼女の文才が最大限に発揮されているのは「あとがき」だ。
2015/04/06
まーくん
何と自由奔放な、天衣無縫・天真爛漫…もう何と言っていいか、著者百合子さんの文章に引き込まれてしまう。夫の小説家武田泰淳とその親友、中国文学者竹内好の海外旅行に「つれて行ってやるんだからな。日記をつけるのだぞ」と武田に言われ、書付た走り書きを元に、旅から9年後、夫も竹内も亡くなった後に発表されたロシア旅行記。旅したのは1969年。横浜から船でナホトカに渡り、シベリア鉄道、空路を乗り継ぎ、当時ソ連領の中央アジアの諸都市を巡るツアーに参加。実に新鮮な目で、余りにも率直に語る現地の人々との交流につい笑ってしまう。
2021/06/02
新地学@児童書病発動中
夫・武田泰淳氏のロシア旅行に同行した時の百合子さんの旅行記。出会えて良かったと心から思える本でした。体言止めを多用した文章が心地よいリズムを作り出し、旅の様子をくっきりと描き出していきます。旅の途中の百合子さんの天真爛漫な行動や心の動きは可笑しくて、何度も吹き出しました。彼女の小気味よい文章はこの天真爛漫さから来ているのでしょう。もう存在しないソ連という国の内側を鮮やかに描き出しているのも良かったです。
2013/11/04
こばまり
【再読】諸行無常を感じさせる氏のエッセイの中でも一際、終わりの予感を孕んだ作品のように思う。クスリと笑いながらもふとした会話、目に留めた光景が一層沁みる。あとがきに鼻の奥がツンとなる。百合子さんを読むと心が忙しい。
2016/02/08
どんぐり
読売文学受賞作。「69年白夜祭とシルクロードの旅」は、船と汽車、飛行機を使った約1か月にわたるロシア旅行。同伴者は、竹内好、武田泰淳、銭高老人、添乗員の山口さんを入れて総勢10人。この旅行記を読むと、女性にはかなわないなと思ってしまう。武田百合子さんがまるで女神のように思えてくるほどにきらきらひかり輝く文章は豊穣で、崇めざるを得ない。
2014/06/22
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