古本綺譚 (中公文庫 て 1-1)
古本綺譚 (中公文庫 て 1-1) / 感想・レビュー
kochi
古書店主であり(あった)、作家でもある著者の初めての本。エッセイなのかフィクションなのか、渾然として分からないところもあるが、古本屋として買取に関する幾つかの小編に加えて、戦前の様々な紙、葉書など、少ないながらに、当時の世相を伝える貴重な記録を紹介する、短いが強い印象を残す文章や、自ら将軍と称した実在した誇大妄想の人、葦原将軍に材を取る抜群に面白い中編など、変化にとむ作品群。本というものには不思議な力があるのではと、思はざるを得ないいくつかのエピソードは、想像力の産物か現実なのか?まさに綺譚の集合。
2020/01/31
ふろんた2.0
古書店のこと古本にまつわるエッセイなので、好きな人にはたまらない1冊。芦原将軍の話は現実なのか本の世界のことなのかわからなくなってくる。
2014/06/06
みや
古書店主による随筆集。古本に纏わる物語の数々は小説より奇なり。承認欲求と「同担拒否」とが混在した、著者を含む愛好家たちの捻くれた性質を垣間見られておもしろい。インターネットなどなかった時代、あらゆる情報が書籍として公的・私的に乱発せられたようだ。そうして物理的な形となっているところに、やはりデジタルデータとは異なる価値があるように思う。芦原将軍の話は大変興味深かった。
2022/11/05
猫丸
「古本屋主人の不思議体験談」はすでにひとつの文学ジャンルである。物神性を纏う商品のなかでも書物は格別だ。所有者の意識においてはゆっくりと堆積していく本の塔たちであるが、積もる過程をすっ飛ばしていきなり大量の書物を目にした人は一種の恐怖を感じる。p.120「本というのは所有者のたましいなのにちがいない」それが怖い。とくにこの世を去ったか、あるいは行方の知れない人物によって残された本たちは非常に恐ろしいものだ。無数の出版物の中から何らかの理由をもって一箇所に集められた本は全体として何かを語り始めてしまう。
2023/02/15
出世八五郎
読書家には楽しい古本にまつわる短編集だから御薦め。イカレタ親父に狂聖芦原将軍と名付ける暖かさもまたいい。
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