夜の橋 (中公文庫 ふ 12-4)
夜の橋 (中公文庫 ふ 12-4) / 感想・レビュー
ミカママ
武家もの、市井もの、そして両方のいいとこ取りみたいな短編が混在する今作。中でもタイトルからしてヤバい『泣くな、けい』にはヤられた。これは男性からしたら夢のような作品。一方女性からしても、(途中ツッコミどころはあれど)身を挺してまでもこれだけ尽くせる相手に出逢えたら、と同じく夢を見させてくれる。冬の夜にはやはり、藤沢周平っちである。【海坂藩城下町 第7回読書の集い「冬」】参加作品。
2021/12/22
ふじさん
表題作「夜の橋」は、博徒に溺れて女房と別れ無頼な生活を送っていた男が、昔の女房への愛を蘇らせ、人生をやり直すことになる。「泣きな、けい」は、主人に犯されながらも恨むことなく、主人の苦境を救う女中のけいを主人公に、主従の垣根を超えた絆を描いたさわやかな作品。他には、男女の心理のひだをさりげなく見事に描き出した「裏切り」、娼婦に身を落とし亡くなった姪の足跡を辿り、彼女をどん底の人生に落とした男をみつけ仇をとる「暗い鏡」。それぞれに独特の趣きがあり、その底には人間に対する深い愛と情、温かいん眼差しがある。
2021/03/16
佐島楓
8編の自選短編集。藤沢さんは、女性のつよさにあこがれていたのかもしれない。そう感じるくらい、女性を書く筆がいい。高潔なところがある。どんな目に遭ったとしても、踏みにじられない部分がある。人としてそういうことをわかっていらっしゃったのだろう。
2015/04/08
nemuro
図書館本。そういえば、読み終えたばかりの『こんなコラムばかり新聞や雑誌に書いていた』(植草甚一)の「中間小説研究」(東京新聞・1971年9月~1973年12月)の中に、『暗殺の年輪』で直木賞を受賞した頃の藤沢作品への批評も度々登場していて、そうかそうかと愉しんだ。表題作を含む「自選傑作時代小説9篇」。巻末に「1981年2月 中央公論新社刊」とあって「1984年2月10日 初版発行/2005年4月25日 改版16刷発行」。「あとがき」の小説(「暗い鏡」)のヒントにかかる“打ち明け話”もオマケのようで嬉しい。
2024/05/09
AICHAN
図書館本。武家もの、町人もの、農村ものの短編集。武家ものは現代のサラリーマンものに当てはまり、町人ものはそのまま現代人の喜怒哀楽ものに通じる。藤沢周平の強みは、現代にも通じる人間模様を江戸時代の武家、町人で表現するのに卓越していることだ。事実をもとにしたものはあまり得意でないよう(例えば『雲奔る 小説・雲井竜雄』等)。読みにくいのだ。ただし、この短編集の「一夢の敗北」はどうやら事実をもとにした作品みたいだが読みやすかった。農村ものは関ヶ原の役直後が時代背景。その時代が持つ禍々しさがうまく表現されていた。
2018/07/21
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