熊を放つ 下巻 改版 (中公文庫 ア 1-4)
熊を放つ 下巻 改版 (中公文庫 ア 1-4) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
上巻を読んでいる時には、『イージーライダー』との相関性を思ったが、この下巻ではアーサー・ペンの"Bonnie and Clyde"(=『俺たちに明日はない』)のイメージと重なるものがあった。この映画も1967年の製作で、小説と全くの同時代だ。1960年代末はカウンターカルチャーの時代であり、既成の価値基準を崩壊させる運動が様々な芸術作品にも反映されていた。その意味では、この小説はまさしく時代の証言者でもあったのだろう。そこでは、何のために?といった問いよりは、ムーヴメントそのものの方が力を持っていたのだ。
2013/04/23
NAO
破天荒であるだけにジギーの喪失感は深く強く、何かをせずにはいられないというまだ未熟な熱い思いは痛々しくもある。それは村上春樹が描く喪失感ととてもよく似ている。だからこそ村上春樹はこの作品に対する思い入れが強かったのだろうが、今回再読して、村上春樹調があまりにも強く出ていることにちょっと辟易してしまった。(初読の時は、村上春樹もアーヴィングの他の作品もまだあまり読んでいなかったから)できたら、村上春樹訳でない訳でもう一度この作品を読んでみたい。
2016/03/03
Vakira
下巻 軽いノリだった青春ドラマは一転。ジークフリートのノートによってジギーと父、祖父の3代に渡る数奇な人生とその時代の大河ドラマとなる。オーストリアでの物語の意味を理解する。第二次世界大戦、ドイツとロシアの狭間の国。さらにセルビア、スロベニア、クロアチアの民族争い。オーストリアでなければ書けなかった話。ユダヤ人大虐殺でなくてもいとも簡単に家族が殺されていく。ジギーの人生と動物解放計画。これが交互に。「暗闇にレンズ」的。羽根子さんこれまねた?弾圧されたオーストリアの人々、解放するのは動物達。
2020/11/26
メタボン
☆☆☆★ 荒削りだが、文体や会話に強い吸引力があり、最後まで面白く読めた。動物園の動物たちを解放する必然性が良くわからなかった。けれどもその不条理性は、訳者である村上春樹の好むものなのだろう。寓意的なジギーのノートの言葉も印象的。
2020/12/18
田氏
なんと、下巻である。何を書くべきかが思いつかない。つまらなかったわけではなく、むしろ逆だったのに。なんだろう、青春譚というには入り組んでいるし、バイオレンスなシーンもユーモアで凄惨さが覆われている。ピントは被写体に合っているのに、何かが徹頭徹尾モヤモヤしている。それがなにか分からないのに、読み終えるなり上巻から読み直してしまった。これはもう、訳者あとがきに書かれているとおり、「小説が総体として持つべき力」と言うしかあるまい。まだ生硬なところがあると訳者は言うが、むしろそれこそが力の源であるようにも思えた。
2019/03/02
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