虚人たち (中公文庫 つ 6-21)
虚人たち (中公文庫 つ 6-21) / 感想・レビュー
saga
【再読】『腹立半分日記』の解説で本作品が実験的手法の小説であることを知っていなければ、到底読了できなかったろう。主人公は、妻と娘が誘拐され、はじめは息子と、途中からは単独で妻・娘の行方を追う。時々、妻や娘と会話をする場面が描かれるところを読むと、やはり虚構の世界の住人=虚人なのだと思い知らされる。全体的に演劇か映画の台本のように、登場人物の動作や心の動きまでも書き込まれ、一つ一つの段落がとても長い。とても疲れた読後感。
2022/10/02
いちろく
紹介していただいた本。この小説を面白い、と書くと語弊を生みそうだが、面白い。妻と娘を誘拐された男を演じていると解っている男が主人公であり、物語の冒頭から物語として壊れている。ネットで他の人のゲームプレイを眺めているような感覚が終始つきまとった。極端な話、小説の登場人物達は著者が伝えたい事を描くためのコマ。壮大なロールプレイングゲームの結果を眺めている傍観者である、私。読み進める内に、作品と私との間に徐々に生じる距離感が、強制的に客観視を生む事にも繋がっている点も、また妙。別の機会に再読したい本。紹介感謝!
2018/04/27
GaGa
これをいきなり読んで面白かったと感じる人は少ないと思うし、ある意味変態だと思う。これは筒井康隆という作家の作品を読みつくして、読みつくすとたどり着く先として存在する。さらにここが行きつく先かと思っていると「虚構船団」なんてものが出版され度肝を抜かれる。とにかく筒井康隆と言う作家は好きになった時点で読者は常に振り回され、それを楽しいと思うしかない。
2013/02/23
さっとる◎
これもすごい本だった(笑)時間が時間通りに流れる。人物はそれぞれの世界を生きるそれぞれの世界での主人公である。あれ?一見それって当たり前なんじゃ?しかしだ。思い返してみる、たった一行で一夜が過ぎる。どんな端役も主人公が生きる世界に取り込まれその世界での役割を果たす。そのお約束で物語は成り立っている。物語が物語である以上主人公が寝たからといって普通は空白のページが現れたりしない(笑)現実にすり寄って物語から遠ざかる。文字を連ねることにより虚構を生み出すということにこんなに自覚的な作家がどれだけいるだろう。
2016/03/17
田中
主人公(父)が自ら小説により創られた虚構の人物であることを、客観的に自覚しながら演じる。著者(筒井康隆さん)が主人公に与えた役柄を、その主人公が虚実分析しながら語るのだ。そこに広がる架空の選択肢を示し展開する。妻と娘が誘拐されたのに、その当事者が突然に現れ消える。ある種の変幻自在なユーモアがあって面白い。場所や空間を自由に移ろい、時間は前後する。物語の筋は、あってないような感じだろう。主人公が著者と重なり合う、こんな小説があったのかと驚いてしまった(笑)奇抜で何ともシュールな読書体験ができた。
2020/10/04
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