改版 出雲の阿国 (下) (中公文庫)
改版 出雲の阿国 (下) (中公文庫) / 感想・レビュー
№9
圧巻だった。それは下巻104Pからさりげなく、そしておもむろに始まる。妹のように慈しんできたお菊に男を奪われ、激しく懊悩するお国の情念が、「踊り」への抑えようのない衝動へと向かい、それが舞台芸術の新たな跳躍へと昇華する瞬間だ。慶長8年(1603年)に阿国によって創始されたと言われる「歌舞伎」の誕生、日本最初の演劇の誕生の瞬間だった。もちろんこれは有吉佐和子という作家の、舌を巻く想像力によって描かれた歌舞伎誕生の場面だが、興奮と陶酔の数ページだった。阿国というヒロイン、しばらくはマイブームになりそうな…。
2013/10/24
シュラフ
女の性(さが)とは、人の魂とは、芸事とは、等々についてが、このひとつの小説に凝縮された中身の濃い作品であった。実際には阿国に関する記録はほとんどなく、伝承化された踊り手ということらしいのだが、有吉佐和子さんは阿国に魂を吹き込んだかのようである。特に、ラストでは、踊りの後で阿国が女人禁制であるはずの鑪(たたら)の火を見る場面で、あたかも鑪の火と阿国の踊りが重なり合うような、まるで阿国自身の人生が昇華していくような恍惚感(エクスタシー)を読み手としても感じてしまった。そんな小説というのはなかなかないだろう。
2012/11/23
がんもどき
なまじ才能を持ったお菊がその上昇欲のために三九郎と出奔した果てに惨めな死に方をし、才能のないお松が最後までお国と共にいたのは作者の女性観からだろうかと思った。鑪者の子として歌舞伎に酔い出雲に死んだ阿国は踊ることに命を懸けたのだということだろう。あっちにつきこっちにつきした挙句にすべて裏目に出て行方知れずになった三九郎がみじめだとも思う。
2023/03/14
ヨーイチ
歌舞伎の成立を作者が想像力を駆使して語っています。演劇人必読。
greenish 🌿
太閤の天下から徳川将軍の御世へ―時代の濁流に翻弄されながらも、憑かれたように己の熱情を歌舞伎に結晶させていく阿国。最愛の人・三山との出合いと離別、よき理解者伝介との死別。歓喜も悲哀も慟哭も、すべてを込めて阿国は踊る、艶やかに。そしてその魂は、出雲へと帰ってゆくのだった。大河巨篇感動の終章。
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