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寡黙な死骸みだらな弔い (中公文庫 お 51-2)

寡黙な死骸みだらな弔い (中公文庫 お 51-2)

寡黙な死骸みだらな弔い (中公文庫 お 51-2)

作家
小川洋子
出版社
中央公論新社
発売日
2003-03-25
ISBN
9784122041783
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寡黙な死骸みだらな弔い (中公文庫 お 51-2) / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

いつもながらに静謐な時間が支配する小川洋子らしい短篇集。今回は「11の弔いの物語」だ。かならずしも連作短編というわけではないが、いずれもが他のどれかの物語と繋がっていて、そして全体としては大きな円環構造をなしている。こうした構成の巧みさからすると、最初から作品集としての構想があったのだろう。小川洋子の物語にしては毒はやや薄めだが、そのかわりじんわりと効いてくるといった趣だ。いずれの短編にも言えるのだが、細部にいたるまで描写が行き届いていて、そのことが物語に確かなリアリティと固有の感覚とをを与えている。

2012/11/02

遥かなる想い

ひとことで言うと、毒をあちこちに散りばめながら、妖しく話をつなげていく展開力には 感嘆した。一見無関係に見える11篇の話が、実は部分的に つながっており、大変快適に読める本に仕上がっている。ただし、物語自体としては、「凍りついた香り」の方が上質であり、私の好みにあうのが・・ ふたつは全く異質なタイプの小説であり、同じ作家が書いたとは 思えないできばえになっている。

2010/05/13

ケンイチミズバ

小川洋子さんの表現力、うなじのうぶ毛の質感をリアルに輝かせる光線までもが見えた気がした。描かれる、例えば広場の情景もいつもながら無国籍で外国の様にも感じる。けれど業者の老婆は明らかに日本の商売人。客が息子の死で時間の止まってしまった母親でなければ、ほとんどストーリーすらも存在しない。ケーキを買いに来たら店の奥で若く美しい菓子職人が泣いていた。そしてその姿があまりに美しく「苺のショートケーキを二つください」の言葉が言えない。ただそれだけなのに引き込まれ、混乱した。この感覚が小川洋子の世界。心地よくひんやり。

2018/02/13

カナン

時に懺悔、或いは妄執、又は情愛、もしかしたら祈りで、案外稚気だけかもしれない。生温く甘美な腐敗臭を漂わせた舞台は何れも至高の狂気日和。生と死を十一のパーツで繋ぎ合わせた弔いの儀式のただ中に、読者はそっと頁を捲ることで誘われるがままに迷い込んでゆく。死体は白骨となりまだ温かいです。大雪が降って素晴らしい天気です。貴方が食べたトマトは真っ赤に腐っていて新鮮です。死んだということは生きた証拠であり、生きるということは死ぬという証明なのです。生と死のエロスとタナトスは、官能的で無慈悲に見えて、脆弱ながらも優しい。

2016/02/17

ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中

よく晴れたうららかな午後だから死ぬのに良い日だと思って雪の降る列車が静謐な晩にとまるから死を思うのにはよく似合うと思った。こんな日のためとっておいた赤いワンピース。苺のショートケーキは食べられるのを待って腐り落ち月の夜は鎮魂歌で照らされる。キーウィの断面が嫌いな私は誰もいないプールで水底から水面を見つめ窒息することを想像する。架空の死を思うのは幸福を思うのによく似てる。悲しみは水の先にあって幸福とおなじくらい遠い。私の死を思うなら悲しまなくていいからあなたの知っている美しい曲をひとつだけ教えてください。

2021/01/20

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