パリ五段活用 時間の迷宮都市を歩く (中公文庫 か 56-4)
パリ五段活用 時間の迷宮都市を歩く (中公文庫 か 56-4) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
鹿島茂によるパリ案内というよりはパリの歴史文化考。タイトルに五段活用とあるのは、8つの動詞をキー・ワードとして考察してゆく(ただし動詞は五段活用型ばかりではない)から。さて、最も魅力に富むのは冒頭に描かれるパリの朝の光景だ。清掃車、立ち上る水の匂い、パンの馥郁たる香り。パリにいるんだなあと実感する瞬間だ。印象派、デパート、ナポレオン3世―現在のパリの立役者たちである。そして、本書には点景のごとく随所にプルーストが顔を見せたりもするが、これがまたパリに一層の深みを与えているのである。
2019/08/09
パトラッシュ
シャンゼリゼの店と裏街の大衆食堂では、同じ料理を食べても違いが歴然だ。混雑するルーヴル美術館の隣だが、パレ・ロワイヤルの寂れ具合は信じられない。そんなパリ滞在時の記憶が、紅茶に浸したマドレーヌのように広がっていく心地よさ。日本人には信じられないフランス人の心性やパリという都市の魅力を、短い文章で手際よく語る鹿島さんの話術を堪能した。ただし本書で描かれるのはパリの光の部分。有色人種の移民や難民が集住する郊外団地など影の部分の飲食や匂いは、同じ国とは思えぬほど断絶している。果たして著者はそこまで書くだろうか。
2020/06/03
ネコ虎
鹿島茂のパリもの。面白くてためになる。いくつかパリものを読んだがいつでも新鮮な感じで興味深い。単純な歴史や風俗の紹介にとどまらないのがいい。「かぐ」「見る」「買う」の章がよかった。特に「かぐ」はパリの不潔・悪臭と香水の関係を描いている(「パリ時間旅行」にもあり)。昔のパリは臭かったとは有名だが、悪臭とか不潔は突然「発見」されたと。つまり当時は臭いと感じられてなかった。これは石井淳蔵「マーケティングの神話」に出てくる静音洗濯機の開発物語に通じる。
2017/07/20
H2A
町田の某古書店でまとめ買いしたうちの1冊。素材はほかの著作にもあるものが大半なのは言わずもがな。著者にはパリの下水の匂いとか街路の敷石の感触とか「これがパリだ」と感じられるものが無数にあって豊かな五感に依拠して語るのでこちらもその世界にひたれてしまう。ベンヤミンにならって集団の意識について語り、彼の話題はニューヨークにまで及ぶ。モノと、その来歴や、そこにこめられた時代の意識に偏執的な関心を寄せる。外出先で読むのに最適な文庫本。
2014/03/16
モリータ
「ただ、問題は本のタイトルであった。なにかインパクトがあって覚えやすいタイトルはないかと知恵を絞ったが、なかなかいい案が浮かばない。そのとき、私が深い考えもなしに「《飲む》《かぐ》《歩く》《しのぶ》《買う》は五段活用の動詞だねえ」と呟くと、田辺さんが、「それ、行きましょう!」と叫んだ。「でも、《食べる》《くらべる》は下一段活用だし、《見る》は上一段活用だよ」と答えると、「まあ、そのことは置いといて、とにかく動詞とパリが結びつくということが読者にわかればいいのだから。それに第一、覚えやすいのがいい」と
2015/03/09
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