マレー蘭印紀行 改版 (中公文庫 か 18-8)
マレー蘭印紀行 改版 (中公文庫 か 18-8) / 感想・レビュー
らぱん
①およそ100年前の旅行記で、美文だがいわゆる美辞麗句を連ねたものではない。詩人は風土の有様や人の在り様を生々しい言葉で表現する。風の匂いと光の色、雨の気配や土の感触、それらが混じり合い立ち上がってくる南国の光景がある。一方で、其処此処に見え隠れする旧来の西欧の植民地主義と台頭しつつある日本の軍国主義のそれぞれの姿を暴く。 しかしそれらも熱帯の息苦しくなるほどの湿度の中に存在する「生命そのもの」に比べたら、一度の驟雨で流されてしまうはかないものと変わりはない。豊かな日本語を操る詩人の言葉に酩酊した。②↓
2020/02/23
syaori
最初の一文から、湿度を持って緩やかに蠢き迫ってくる、息苦しくなるような空気が満ちてくるよう。作家が旅するのは泥を含んだ水と圧倒してくるような樹木、マレー人やインド人、日本人や華僑などの雑多な人々の間。見聞きするのは前借や阿片で進退窮まったマレー人や華僑の労働者、身を売るために森の奥へ奥へと進んでいった日本人女性の物語。気だるい南の森や海には饐えた生活の苦しみが満ちている。それが美しいのは、作家自身がその生活の辛さのなかに人生が、愛おしいものがあるのだということを知っているからなのだろうと思いました。
2019/04/10
harass
詩人である著者の東南アジア紀行文。数回分の旅行の印象をまとめたもの。昭和初期の日本人が南方のマレースマトラジャワに進出している時代だ。現地の様子や現地日本人娼婦などとの出会い。苛烈極まりない植民地の自然と人間の悲しさと生活の無残さを、悲しくも美しく描いていく。この著者独特のあけすけな表現が人間と生活の生々しさを一層きわだたせていて選ばれた言葉の強さはさすがの詩人だと感じる。時代がかった語彙や非日常的な表現も多くまごついた部分もあったが日本語の豊かさを再認識した。
2013/09/03
かふ
今日では新婚旅行のヴァカンス巡りなんだろうが、金子光晴が愛人を伴った逃避行?この時代は日帝が植民地を求めていた時代で、差別的表現も見受けられる。オリエンタリズムを逃れ得ないが、金子光晴の視線は弱いものに注がれていた。貪欲な人間が木陰で寝ている蝙蝠を撃って食べる。ウィルスが人を滅ぼしたいのがよくわかる。植民地によって、山は焼き払われ、自然が駆逐され、心までも失っていく。日本人はどこでも旦那で、苦力が中国人(支那人)、土人がマレー人。彷徨える琉球人。そして山師たちに騙され売られていく「からゆきさん」。
2022/07/03
メタボン
☆☆☆☆☆ 詩的で濃密、たたみかけてくる文章に酔った。描写はきれいというより、薄汚れ、臭い立つ気配がするが、かえってマレーの風土を想起させる。とても1940年に発行されたとは思えぬモダンな文章の中に「古めかしい漢字」が散りばめられ、幻惑される。魔術的な読書体験だった。「繁茂は、ふかければふかいほど明るく、軽く、大胆で、寂しげだ。かよわいコンポジシオン。猥らさのない爽やかな放縦。カユ・アピアピは水の一族である。水で生きている「瞳」とおなじように、しずかで、聡明で、すずしくて、ただうるおいにうるおうている。」
2014/10/25
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