ねむれ巴里 (中公文庫 か 18-9)
ねむれ巴里 (中公文庫 か 18-9) / 感想・レビュー
HIRO1970
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎リハビリ27冊目。もはや伝説の紀行3部作の2冊目ですが、本作は1929年昭和4年から始まります。嫁を先に一人でシンガポールから船でマルセイユに送り届け、後から金策に走りパリで合流するという度肝を抜かれる展開から始まり、とても第一次世界大戦後の事とは思えない進歩的な夫婦関係とその日を生き抜く力の壮絶さに全編に渡って打ちのめされ、痺れました。1冊目に感じたダメ人間的な部分だけでは無く、底知れない打たれ強さの様な面が窺われ、その死生観や文章の良さにも随所に冴えがあり傑作と言える作品でした。
2019/10/05
syaori
「生物ども」の息ぜわしさと熱に満ちた南洋を抜けてたどり着いたパリの生活の、何という無惨さ。芸術の都にあくがれてやってきた日本人たちは、金もなく万が一の幸運と自分の才能への望みを掻き抱き、送金のある者たちは彼らを遠ざけようとする。八方に支えのない、パリの暮らし。描かれるのは、他者のパリの夢が風船のように割れてゆくのを楽しみ憐れみ、金策と妻を抱える暗鬱と執着にあがく作者や、今は亡いまたは消息も分からない人々の「人間らしい愚かな」「滑稽でいじらし」い姿。その人の業のなかで鈍くゆらめき煌くものに目を奪われました。
2019/06/21
kinkin
本来は『どくろ杯』から読むべきだったかもしれない。金子光晴と夫人三千代とのパリへの旅。金子光晴が見て体験した80数年前のパリは今のパリではなく、猥雑な巴里だということが、この本から読みとれる。その巴里にどっしりと腰を据えて様々な人々の生と性が見事に描かれていると感じた。
2014/03/24
jahmatsu
「どくろ杯」の続編でやっとパリヘ。ド貧乏の凄まじい生き様。極貧をこれだけ面白く語れるのは詩人たる言葉のセンスだろうな。改めて生命力の強さを感じる作品。 前半のパリへ向かう船内での寝ている中国人女性との絡み?ここ最高スギ。涙出た。
2018/04/05
メタボン
☆☆☆☆ すさまじい体験記。迸る文体。さすがランボーの翻訳者だけある。「人それぞれの日常生活のあいだで、食肉の脂身のように、うそがゆきわたっていた。ことばは綾であり、うその花であった。現実は酷くても、程のよいことばの駆け引きで花も香りも生まれ、この世がゆたかになるものと心得ていた。」「花のパリは腐臭芬芬とした性器の累積を肥料として咲いている、紅霞のなかの徒花にすぎない。」「パリは、よい夢をみるところではない。パリよ、眠れ、で、その眠りのなかに丸くなって犬ころのようにまたねむっていれば、それでいいのだ。」
2015/03/24
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