戦線 (中公文庫 B 24-14 BIBLIO war)
戦線 (中公文庫 B 24-14 BIBLIO war) / 感想・レビュー
roatsu
表題は従軍作家として同行した昭和13年の第六師団の漢口進軍を巧みな筆致と豊かな情感で綴る迫真作であり、支那戦線と出征将兵の実相を現代によく伝えている。現代よりずっと戦が身近な社会だったとはいえやはり銃後の身には戦場は遠く、戦線に飛び込んで戦争の何たるかを知っていく著者の心の動きが躍動的。今日の反日売国的姿勢と違い、体制べったりで聖戦完遂の旗を振って世論を扇動した当時の朝日新聞の報道班員が複数登場するのも隔世の感ありで面白い。プロパガンダに使われても戦争の一面を切り取った名文として本作の価値は不変である。
2016/01/19
ヘラジカ
感情を思い切り発露させた文章は読んでいて中々気持ちの良いものがある。が、記者としての待遇で戦地を廻った従軍記に、特別な価値はあまり見出せない。むしろ併録されている短編ルポ「凍れる大地」と佐藤卓己氏による解説の方が興味深かったりする。実際に兵士として闘っている人たちを傍目に、女性記者としての優遇でトラックで戦地を廻って「戦争が如何なるものかを知りました」と言われてもねえ。『生きている兵隊』とその解説を読んだ後では尚更……
2012/09/14
sokoi
解説によるとペン部隊に参加した女流作家、林芙美子と吉屋信子は朝日新聞社と毎日新聞社にそれぞれ後援され、二人のルポ対決はさながら二社の代理戦争の様相を呈していた。芙美子の名義で多額の国防献金をさせて記事に仕立てるとか誇大広告を打つとか朝日側のやり口はとかくえげつないのだが、特にひどいのは芙美子が見学した野戦病院でたまたまそのとき戦死した将校の遺族を使って芙美子宛に感謝の手紙を書かせ、それを美談として報じたことだと思う
2016/07/10
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