二百年の子供 (中公文庫 お 63-2)
二百年の子供 (中公文庫 お 63-2) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
大江自身が「私の唯一のファンタジー」と言い、「いまのリアルさと不思議さを書きたい」という意気込みで書いた作品。真木、あかり、朔の三童子(大江家の3人の子どもたちに見えるが、もちろんフィクション)がシイの木のうろを一種のタイムマシンとして120年前、あるいは80年後の世界に行く物語なので、確かにファンタジーではあるが、そこで語られるのは大江がこれまでにも繰り返し語ってきた森の伝承であるメイスケさんとの邂逅の物語である。これまでとの違いは、この小説が過去だけではなく未来を指向し、希望がそこにあることか。
2021/01/16
nakanaka
今まで私が読んできた大江作品とは趣が異なりSFファンタジーでした。両親の長期不在により田舎の祖母の家に預けられた三人の子供たちが、過去や未来へとタイムスリップして様々な経験をするという内容。三人の子供たちとその両親は作者とその家族をモデルにしており、作者の家族への愛情を感じることができます。病気により死の恐怖を感じた息子に対する母の言葉「大丈夫、私がまた生んであげる。」など印象深い言葉が随所にあり、心に染みて読んで良かったと思える作品でした。また作中に船越桂さんの絵が多用されているのも印象的です。
2019/03/18
モリータ
◆'03年1-10月読売新聞連載、単行本は同年中央公論新社刊、文庫'06年刊。◆作家(≒大江)の子ども3人(長男真木18歳、長女あかり14歳、次男朔13歳)を主人公とする。作中時間は父が「ピンチ」となり母とバークレーに滞在していた'84年('90年の『静かな生活』の時間と同じ)。◆森の谷間の木のウロから、過去の森の谷間を描いた『M/T森のフシギの物語』『芽むしり仔撃ち』さらに未知の未来世界にタイムジャンプする。子供の視点を通じて、過去と未来への向き合い、働きかけについての大江の希望が綴られる。
2021/12/31
Z
大江健三郎の子供向けファンタジー(らしい)。私小説の体裁をとり主人公が著者に近い人物である小説を書いてきたが、今回は著者らしい人物は後景に退き(一応最後に重要なシーンで出てくる)、メインは三兄弟の子供達。田舎の祖母の家に預けられ、そこで過去と未来へタイムスリップする。子供が読んでどんな感想を抱くのか誰かに聞いてみたいが、クライマックスのシーン(と思う)である子供と著者の対話の中での新しい人という言葉に込めた著者の願いに感動できるかどうか、とラストの終わりはキレイと思う。子供の読んだ感想が聞きたいな〰️
2019/03/15
ゆうこ
芽むしり子撃ちとリンクしてるのが嬉しかった。子供向けの話ということで、はじめて大江健三郎を読む人に特におすすめしたい。しかし中に含まれているメッセージは大人になってから読み取れないものも多く感じた。なので、大人も楽しめるし、じっくりと考えさせられると思う。特に子供にとって完全な父というのが、あとかぎにも書いてあるようにポイントだろう。
2013/07/28
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