だれのものでもない悲しみ (中公文庫 つ 24-1)
だれのものでもない悲しみ (中公文庫 つ 24-1) / 感想・レビュー
翔亀
優れた小説の読み手で、作り手として小説ならではの思わぬ時空へと連れて行ってくれ、かつ人生の深淵を垣間見せてくれる名手・辻原さんの金魚三部作(勝手に命名)第一作。金魚はフナの改良種、つまり交配させて人為で進化を加速させたものだが、その究極の金魚に"ハマトウ"という種がある。ヒキガエルの頭という意味の中国語。足のないカエルなのだ。これは紫禁城の宮廷金魚師が清朝末期に完成させた漢文明最後の徒花。このハマトウが出てくる三作を続けて読んだ。いずれも作風もテーマも異なるのが辻原さんの凄いところで、しかも進化を加速↓
2017/04/27
安南
「カビリアの夜」を通奏低音として、川と湖を配し、左右を曖昧にすることで現実感を失わせるのは辻原氏お馴染みの手法。借金まみれの情けない男、女のために犯した罪が「運命の悪戯」か、女をも追い詰める。追い詰められれば呆気なく死を選ぶところなぞ、まるで近松の心中もののよう。死出の道行き。浄瑠璃のように義理と因果が御都合主義に絡み合う。恋人達は偶然と必然を撚り合せた運命の赤い糸に吊られた人形。作家の人形遣いっぷりを楽しみたい。とはいえふたりはこっそりと、合歓の木の下で濃密な愛の時を過ごしていたに違いない。
2013/08/14
KAZOO
辻原さんにしては題材は結構事件てきなものを取り上げているのですが、内容はかなり文芸的な感じの作品に出来上がっていると感じました。今の人には好き嫌いが結構分かれる作品かもしれません。私はこういう作品も好きです。
2014/08/12
ヨコツ
過剰なくらいスピーディーな文章なのに、物語の中を流れる時間は非常にゆったりしている。この時間感覚の狂いは何かのイメージに繋がると思ったら、そうか、走馬灯だ。運命的に出会う男女のストーリーとの事だが、それは珍しくも何ともない。数ある偶然を「運命」という形に整えて披露するのは、小説に限らず実際の人間関係の中でも欠かせないスパイスだからだ。ともあれ、最初は不自然なくらい誇張して語られ、途中からは泥臭く利用される「運命」が、最後の最後に本来の姿を取り戻すやり口は面白かった。
2013/06/22
kuukazoo
やや唐突なストーリー展開、切り貼りのごとく交錯する時空間。映画の筋ではなく映画そのものを小説にするとこんな感じなのだろうか。登場人物たちは小説家という神の手で弄ばれているようにも、舞台の上や画面の中で演じている俳優のようにも見える。ご都合主義とかわざとらしさを仕掛けにこんなエンターテイメントを構築する辻原登の手練れさ加減といったらもう。
2017/07/13
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