地獄の思想: 日本精神の一系譜 (中公文庫 う 16-4)
地獄の思想: 日本精神の一系譜 (中公文庫 う 16-4) / 感想・レビュー
たまきら
日本人の情念を熱くあくまでも主観的に見つめた一冊です。初読は20代前半だった気がします。梅原さんの言葉で初めて西日本の文化に触れ、アメリカ育ち、関東生まれの人間である自分はその思想に不思議な「異文化」を感じました。50近くなって読み返したとき、この人の文章に流れる不思議なリズムに気づき、これもまた何かしらの祈りの系譜なのかもしれない…と感じています。日本の思想にはいつも「祟り」がある。COVID19に揺れる日々。梅原さんの言葉で何かを感じ取りたい自分がいます。
2020/04/20
井月 奎(いづき けい)
大乗仏教の影響を見つめ、仏教は現世をも夢幻とすることで、黄泉の国であるらしい地獄も我々個人の内に存在すると言い、この世と地獄が地続きであることを第一章で示し、第二章では作品、作者によりその地獄のとらえ方と表現方法を書き綴る。攻撃的で時に性急な文章は強引に思えるところもあるが、大胆かつ説得力のある説にもなっている。宮沢賢治の童話と詩がなぜ、祈るように綴られているのか、太宰治の無自覚的な言い訳はなぜ必要なのか、能と歌舞伎、浄瑠璃の死生観、それらを地獄という立ち位置から説明した、分かりやすい文学鑑賞指南書です。
2016/11/03
fishdeleuze
久しぶりの再読。二部構成になっていて、第一部は総論、仏教経典から読み解く地獄の誕生について。釈迦の苦と欲望に対する認識から生まれた地獄の種子が、智顗・源信で壮大な絵図が描かれ地獄は極まり、法然・親鸞をへて浄土へ向かう壮大な流れを論じている。第二部は各論で、日本文学における地獄の様相について、源氏、平家物語、世阿弥、近松、賢治、太宰を取り上げている。特に、宮沢賢治の論考において、法華経の理解から読まれた賢治の詩の世界の美しさ。昭和42年に出版された本だが今もってまったく古さを感じさせない。
2013/04/24
原玉幸子
儒教の中国に対する「仏教の日本」の原論として、梅原が『地獄の思想』を唱えています。原始仏教から始まり、釈迦から法然・親鸞迄の学術体系的な仏教の解説の第一部には首を傾げつつも、『源氏物語』、『平家物語』、世阿弥、近松、宮沢、太宰を取り上げる第二部の文学解説は、(私は、光源氏の性豪暴君振りが余り好きになれずに『源氏物語』を現代語訳版第一巻で投げ出してしまったのですが)著者の語りに惹き込まれ、再読チャレンジする気になりそうなぐらい可也面白かったです。(◎2021年・夏)
2021/06/18
うえ
「無有愛というものはなんであろう。多くの仏教学者は、それを存在したくない欲望、あるいは非存在に執着する欲望であるという。無有愛を欲望のなかに入れること、それはまことに 仏教らしい人間洞察である。晩年のフロイドはタナトスというギリシア語を使う。タナトスはギリシア語で死をいうのであるが、フロイドは、エロス、生の欲望にたいして、タナトスという言葉で死への欲望を示そうとするのである。死への欲望などというものが人間にあるのか。これについて、精神分析学界でもさまざまな議論がある」
2019/06/06
感想・レビューをもっと見る