夢の浮橋 (中公文庫 た 30-54)
夢の浮橋 (中公文庫 た 30-54) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
タイトルは谷崎が終生愛してやむことのなかった『源氏物語』の最終巻である。してみると、これはその源氏の続きともいうべき夢物語であるのか。これが純然たる創作であることを知りつつも、読んでいるとつい谷崎自身のことを語っているのではないかとの錯覚に陥りそうになる。あるいは、この作品は錯覚、あるいは錯視の上に成立する物語なのではあるまいか。二人の母に与えられた茅渟の名ばかりか、「私」の幼児の記憶の中の母の混乱、あるいは不連続の連続。糺の森(主人公の名も糺である)に包まれて静かに語られる妖艶な物語。
2023/04/06
優希
中編とエッセイから晩年の谷崎の円熟した筆を感じることができました。母恋物語も、日常のあれこれも谷崎の手にかかると優美で風雅な空気を醸し出します。流れるような文章が心地よく、特に散文による記憶の描写はありありとその様子が浮かんでくるようでした。小説のエロティシズムと朧げな印象もまた然り。贅沢を言えば小説の雰囲気をもっと味わいたかったところです。
2017/11/02
コットン
短編『夢の浮橋』が面白い。主人公の母と語調や所作・雰囲気まで瓜二つの義母という二人の存在や義母の意外な過去と現在が読み終わると幻想的でもあると感じました。近藤聡乃さんのおすすめ本!
2019/09/05
安南
タイトル通り源氏物語を下敷きに、藤壺と源氏のように糺と義母との母子相姦が仄めかされる。けれども、この糺氏は、罪悪感に苛まれることも思い悩むこともない。そういった人間の情念を描かないことで、むしろその異常さが際立つ。物語は終始曖昧で薄らぼんやりとしていて、乳房の熱さは伝わってくるのに、どうにも冷え冷えとして、寂寥感が漂う。それにしても、この変態ぶりはどうだろう…乳房フェチはわかるけど、アレ(ネタバレか?)まで、口にしてしまうとは…。それもコップで…。
2015/01/12
i-miya
2012.01.31(初読)谷崎潤一郎著。(カバー) 若くして死んだ母そっくりの継母。継母へのあこがれと、生母への思慕、混合する意識。谷崎文学、母恋物語の白眉。(谷崎潤一郎) M19(1886)東京日本橋生まれ、旧制府市一中、第一高等学校、東京帝国大学国文中退。M43、第三次新思潮(小山内薫らと)『刺青』など。三田文学誌上で、永井荷風が激賞。S40.07没。
2012/01/31
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