十二人の手紙 改版 (中公文庫 い 35-20)
十二人の手紙 改版 (中公文庫 い 35-20) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
エピローグを含めて13の物語からなる書簡体連作短編集。書簡体といえば三島由紀夫の『レター教室』を思い浮かべるが、井上ひさしのものはミステリー仕立て。そのことは、良くも悪しくも本書の各篇の構造を均質化してしまった。すなわち、それまでは書簡体特有の親密さで語られていたものが、最後の1,2ページで一気に劇的に収束するのである。それでも驚くのは「玉の輿」。ネタは明かさないが、最後に感心すること必定である。大団円の「人質」が最もミステリーらしくもあり、また軽演劇のコント風の味付けで全篇が締めくくられるところは洒脱。
2016/10/19
のいじぃ
読了。十二人の手紙から浮かび上がる昭和の人間模様。男と女が在る限りいつの時代にも交差する愛憎劇から、届出だけで語られる女性の生涯、好意の裏側にあるものなど様々な状況で垣間見える人の感情に心が揺さぶられる。中にはそこまでやるかと思うものもあるけれど、それ以上に良くも悪くも生きているという生々しさが手紙から伝わる文章の凄さ。そしてクスリとさせられる「手紙の書き方」。エピローグでは全員集合で締め括られ濃い一冊でした。良い時間をありがとうございました。先に読んだ交換日記といい似たような手法と短期間で出会う不思議。
2020/06/30
舟江
「手紙」と言うことで選んだ本。内容は、仕掛け的戯曲的な本であった。一番面白かったのは、「桃」。「寄贈」に関し、西洋的なものと東洋的なものが、激闘している様は、面白かった。お互いに自分こそが正しいと信じ切っているのだから、本当に漫画の世界である。これは井上でなければ書けない。
2016/09/03
おたま
12人の人生のエピソードを手紙を通して浮き彫りにしている。手紙だけでなく、公的な文書(婚姻届、死亡届等)も織り込んでいる。手紙ならではの特性を生かして、うまくどんでん返しを作り出したり、ほとんど公的文章のみで一人の人生を刻み付けたり、井上ひさしの手腕に舌を巻く。ほとんど超絶技巧の技の見本市だが、それぞれのひねりが大変面白くのめり込んで読める。そして、最後の13番目『人質』で、それまでの手紙の登場人物たちが勢ぞろいして、もうひとひねり加わるところに、井上ひさしのサービス精神を感じた。巧妙に構成された一冊。
2020/05/27
しんたろー
「面白い!」読んでる途中で思わず声に出た…様々な書簡の形式で綴られた12の短編集は、人の裏側を時には優しく時には醜く描いていて最初の一編から惹き込まれた。手紙を書く本人の声が聴こえてくるような内容は、一種の叙述トリックでもある訳で、どの話も最後に引っ繰り返される謎解きが待っているのも嬉しい。エピローグでは、各話の登場人物がカーテンコールのように顔を出して、読者サービスまでしてくれているのも憎い!井上さんは数十年前に『吉里吉里人』を夢中になっだが(内容は覚えていないの哀しい)、それ以上に人に勧めたくなった。
2021/01/08
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