ゼラニウム (中公文庫 ほ 16-3)
ゼラニウム (中公文庫 ほ 16-3) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
濃密に文学の香りが滲み出る短篇を6篇収録。現代の日本文学において、いわゆる純文学の書き手として、おそらくは堀江敏幸がNo.1ではないだろうか。例えば、その冒頭に置かれた「薔薇のある墓地」は、最初は入り込みにくいが、一旦その世界に入ると、もうその文学空間から逃れることができなくなる。いずれも、、個と個の自立性を保ちつつも、ついにそこには至らないほのかなエロティシズムの交歓の感じられる作品群だ。表題作の「ゼラニウム」にいたっては、ゾクッとするほどに怖い、まさに現代のフランス文学の中に置けるほどの逸品だろう。
2014/05/19
新地学@児童書病発動中
傑作短編集。好みの作品ばかりで、読んでいると胸がわくわくした。どの物語も主人公の男性が女性と出会うことで物語が進んでいく。恋ではなく、奇妙な縁といった感じだ。裏表紙の紹介に書いてあるようにほのかな官能が感じられるが、それは人の命の不思議やはかなさと一体となったもので、切なさが胸に迫る。「薔薇のある墓地」が私のベスト。主人公がパリで出会った女性の痛ましい死を描く作品。ぬくもりを持った人の体も、事故により死体に変わってしまう。人の命のはかなさが身に沁みた。
2018/05/11
コットン
6つの忘れがたい短編集。『薔薇のある墓地』では亡くなったエレーヌを思い、一年足らずの仕事上の付き合いのエレーヌのバイクの後ろに乗って「私の腕が感じ取ったのは、まぎれもなく大人の女性の、あたたかい肌である」という。この文章を読んだ今、十数年前私の従姉と葬式で再会時に彼女が私の「お腹を触りたい」と言った。たぷたぷのお腹なので「だめ」と断り続けたのだけれど、冷静に考えると多分もう会うことがない最後の機会だったことと、彼女も還暦を超えていただろうことを考えると「いいよ」と言うべきだったと…これを読みそう感じた。
2016/01/06
Eee
1つの短編からから次の短編へ 違う時と違う場所で編み出されるストーリーだが 絡まり合う印象を与える作品たち 余韻を残す読後感に浸っていたい
2017/09/28
酔拳
6編の短編が収められています。どの短編も、主人公の男性が作者なのか、別の人なのか謎ですが、主人公の男性と謎めいた女性達が登場し、深まりそうで深まらない、男女の距離感が心地よかったりします。全編を通して、一文一文が長く、読みにくさがありましたが、読み返してみると、心に残るものがあります。特に、「砂の森」「アメリカの晩餐」にでてきた女性に魅力を感じました。
2020/03/27
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