怪異考/化物の進化 - 寺田寅彦随筆選集 (中公文庫 て 8-2)
怪異考/化物の進化 - 寺田寅彦随筆選集 (中公文庫 て 8-2) / 感想・レビュー
夜間飛行
孕のジャンを地鳴り、ギバを放電現象と見破った寅彦は、しかし化物を人間と自然の正嫡子として大いに存在意義を認めている。例えば雷を、昔は「虎の皮の褌をつけた鬼の悪ふざけ」と思い、今は「空中電気と称する怪物の活動」と考えるが、結局「昔の化物が名前と姿を変えただけ」という。子供達が「頭の頂上から足の爪先まで突き抜けるような鋭い神秘」を感じられなくなったのを憂い、科学教育に疑問を投げかける。科学教育の是非まではわからないが、世の中が隅々まで明るくなり怪異の居場所がなくなったら、どんなに味気なくなるだろうと私も思う。
2013/08/18
HANA
著者の怪異関係を中心に、様々な随筆を収録している。怪異を科学的に分析するというスタンスだが、闇雲に否定だけをするのではなくその分析も含めた上で不思議という結論に至っているのが面白い。現在の科学者もこのようなものを不思議と認められるのだろうか?化物教育の必要性を語っているけど、これなどは大いに感銘を受けた。幼年期に受けたその教育を懐かしく語る「重兵衛さんの一家」は珠玉の一品だと思う。他にも厄年と確率の問題や病院の音の話等も面白い。ただあまり専門的な随筆はこちらの基礎知識がなさすぎて読むのが辛いものもあった。
2012/10/07
三柴ゆよし
物理学者であり、漱石門下最古参の文人でもあった著者の随筆から、怪異関係のものを抜き出した選集。怪異を迷信として切り捨てるのではなく、あくまで物理科学の対象として捉えようとする視点は井上円了のそれに近いが、円了の場合、仏教哲学者乃至啓蒙思想家としての側面が強すぎて、研究者でもない人間が文章として読むには結構辛い。その点、この人には説教臭さが少なく、むしろ自身から積極的に惑うことを楽しんでいる節がある。内容自体もさることながら、文章の端々に、漱石っぽい言い回しが垣間見えたりもしておもしろい。
2012/09/02
ハチアカデミー
C+ 怪異とは解決し得ぬ魑魅魍魎をぶち込むブラックボックスである。幽霊とは自然現象を人間が見誤ったり、知識不足から生まれる誤解であるのかもしらん。それを前提としながら、科学者寺田は「頭の頂上から足の爪先まで突き抜けるような鋭い神秘の感じ」の有用性・必要性を語る。科学なんて、見方を変えれば現代の化け学なのだとまで言い放つ視点が鋭い。いまも昔も、科学・技術と自然は不可分のもの。どちらかに偏ると問題が生じる。だからこそ「自然への憧憬を吹き込むこと」で、人間が己を省みる視点を得ることの重要性を説く。
2012/10/16
late
先日読んだ同著者の随筆集といくつか重なりもあるが、こちらは怪異についての雑感を綴ったものが多い。科学と化け物の間には深い関係性がある。今も昔も。
2018/07/28
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