正弦曲線 (中公文庫 ほ 16-6)
正弦曲線 (中公文庫 ほ 16-6) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
まず何よりもタイトルが美しい。Sine curveのことだが、その本体が持っている美しさに加えて、何か神秘的なものまでも感じ取ってしまう。連作エッセイである本書には、「風の接線」など、数学的なイメージを語ったものも多いのだが、それでいて著者は「ノイズを受け入れる」ことに拘泥するのである。その態度は、いい意味で、かつての高等遊民のそれに近いが、近来ではまれな作家ということになりそうだ。そして、ヴァイオリニストのジネット・ヌヴーへの偏愛など、音楽をはじめ、芸術全般への造詣の深さがそれを支えているのである。
2015/01/27
tototousenn@超多忙につき、読書冬眠中。
☆4.5 メトロノームの不甲斐なさも むしろ厭はず嫌はず 見出す均衡は 言葉の格納庫から 100グラムばかりの 随筆と成して 堀江敏幸が。
2020/12/24
コットン
堀江さんの本は例えば控え目だけれど随所に知的ウイットのある笑いを挟んで話してくれる小父さんのような存在です。:サイン、コサイン、タンジェントの呪文が巨人、大鵬、卵焼きへと変化したり、化学調味料がいつの間にかうまみ調味料となり「うまみ」が美味しい味じゃなく労せずして手にできる不当な利益を連想し、むしろ化学より危険と感じるなど…。
2016/03/20
chanvesa
今まで読んできた堀江敏幸さんの本の中では、ユーモラスな側面が出てきて、面白い。うまみ調味料の話が印象的。ヌヴーは悲劇的な死については知っていたが、聴いたことないので、是非今度。
2017/01/03
やまはるか
広範な題材を扱った随筆集「幻でしかない正弦曲線を言葉で描き、しかも崩れの予感をぎりぎりのところで無効にしておきたい」と、タイトルの意味は文庫版あと書きに。昔の冷蔵庫で「水を入れた製氷皿を綱渡り芸人のように運ぶ」仕事を「力が入っているのに出てはいないという技の極意」と言う。経験したものには昔の所作を思い出させるまさに正弦曲線の表現と思えた。「飛んで来るあの飛行機には、昨日私が昆虫の涙を塗っておいた」という中原中也の詩ははじめて読んだが、どこかに眠っていた少年の心が正弦曲線のまま静かに共鳴するのを感じた。
2022/06/16
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